ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

芦沢央『カインは言わなかった』

 ダンス・カンパニーが題材の芦沢央『カインは言わなかった』。妻を津波で亡くした芸術監督が「オルフェウス」を題材に舞台を演出したり、被災地とかかわりのある人物が他にも登場するなど、震災後文学の要素を含んでいる。“そこが主眼ではないが”ということもテーマの一部になっていることが興味深い。

 同作に関しては、間もなく発売の某誌に書評を寄せた。

 

カインは言わなかった

カインは言わなかった

 

 

 

 

最近の自分の活動

-7月31日のトーク・イベントの記事がアップされた。 → 円堂都司昭×楠芽瑠×一色萌×高木大地×成松哲のプログレ強化講座レポート、あるいは、キスエクという現象 https://spice.eplus.jp/articles/254165

-9月10日のゲンロンカフェのイベント。タイムシフト視聴は9月17日まで。 → 円堂都司昭 × 速水健朗 「悪夢の現実と対峙する想像力─円堂都司昭ディストピア・フィクション論』刊行記念」 https://live2.nicovideo.jp/watch/lv321473604

Vera Lynn"We'll Meet Again また会いましょう”

時事通信 「バイバイ英国」盛大にパーティー=オランダ小村、予約1万人超

https://www.afpbb.com/articles/-/3242389

[英国が欧州連合EU)から離脱する予定の10月31日]

[EU加盟国の名産を飲食しながら、砂浜で対岸の英国に向かって手を振る予定。第2次大戦中にヒットした英歌手ベラ・リンの名曲「また会いましょう」などをバンドが演奏する]

 

 Pink Floyd『The Wall』の“Vera”はこのVera Lynnを題材にしており、その詞には「We would meet again」という”We’ll Meet Again また会いましょう”に対応したフレーズも織りこんでいた。

 同アルバム全体を演奏したライヴ『Is There Anybody Out There? The Wall Live 1980–81』では冒頭にVeraの歌がほんの少し流れる。

 

 また、”We’ll Meet Again“はキューブリック監督『博士の異常な愛情』最後の核爆発シーンに流れたことでも有名。

 

 

最近の自分の仕事

-劉慈欣『三体』、澤村伊智『ファミリーランド』の紹介 → 「小説宝石」9月号 https://www.bookbang.jp/review/article/581761

-成毛眞『人生も仕事も変わる!最高の遊び方』の紹介 → 「モノマスター」10月号

-産経新聞9月2日「不気味なディストピア作品に脚光…現実社会に近づく?」https://www.sankei.com/life/news/190902/lif1909020016-n1.html でコメント ← 電話取材で30分以上話しても、わずかしか使われないとわかってはいた。だが、それにしても発言の雑な切りとられかたにがっかり。ポリティカル・コレクトネスについてはそんな単純な話ではないし、それについては下記のゲンロン・カフェのイベントでと思っている。

 

9月10日(火)

円堂都司昭×速水健朗「悪夢の現実と対峙する想像力ーー円堂都司昭ディストピア・フィクション論』刊行記念」

詳細はこちら↓

https://peatix.com/event/1059025

 

SUMMER SONIC 2019

8月16日に観たもの

THE STRUTS~BiSH(後半)~アキラ100%Little Glee Monster~PALE WAVES~BANANARAMA(後半)~The Birthday~BJORN AGAIN~TWO DOOR CINEMA CLUB

 

 この日はROBERT GLASPERで締めようと思っていたが、強風の影響でBEACH STAGEが全面中止になったので調子が狂ってしまった。

 

 以下、簡単なメモ

・ほぼ横に近い位置から見たアキラ100%の面白さ。

・思っていたより中低音の声にハリがあるのがいいなと思ったLittle Glee Monster

The Birthdayではチバユウスケのカッコよさに鳥肌。髪や髭に白いものが混じってもあのささくれた声は変わらなかった。

・BJORN AGAINはABBAをただコピーするだけでなく、“Gimme Gimme Gimme”の途中に同曲をサンプリングしたMadonna”Hung Up”を挿入したり、”S.O.S.”に「I'll send an SOS to the world」のフレーズがあるThe Police”Message In A Bottle”をつなげたり。さらにベニー役がBon Jovi”Living On A Prayer”を熱唱したのには驚いた。ABBA目当てで集まったはずの観客も大合唱。芸達者である。

円堂都司昭 × 速水健朗「悪夢の現実と対峙する想像力」

ゲンロンカフェでこのようなイベントを行います。

 

2019 9/10(Tue)19:00~21:30(開場18:00)

円堂都司昭 × 速水健朗

「悪夢の現実と対峙する想像力──円堂都司昭ディストピア・フィクション論』刊行記念」

 

当日言及予定の作品(の一部)

ジョージ・オーウェル『一九八四年』
桐野夏生『ハピネス』
新海誠『天気の子』
百田尚樹『カエルの楽園』
古市憲寿『平成くん、さようなら』
・『トイ・ストーリー』シリーズ

 

くわしくはこちら。

https://genron-cafe.jp/event/20190910/

 よろしくお願いします。

 

ディストピア・フィクション論: 悪夢の現実と対峙する想像力

ディストピア・フィクション論: 悪夢の現実と対峙する想像力

 

 

 

最近の自分の仕事

・「メフィスト評論賞」選考対談 法月綸太郎×円堂都司昭 → 「メフィスト」2019.VOL.2

『発禁放禁歌集』回想

 プログレッシヴ・ロックの歌詞を解説した本を出したのに伴い、先日、イベントを催した(7月31日「夏を制するものはプログレを制する!円堂都司昭『意味も知らずにプログレを語るなかれ』刊行記念~絶対合格!キスエクと学ぶ「夏のプログレッシブロック強化講座」高円寺pundit’」)。

 当日、展開次第では~と思いつつ、機会がなくて喋らなかったことがある。もともと、私が歌詞というものに興味を持ったのは、中学時代に古本で買った『発禁放禁歌集』(ルック社、1977年刊)が大きかったということだ。

 引っ越しの時に本は手放してしまったが、プログレ・イベント後に起きた、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」をめぐる騒動があって以来、同書のことが思い出されてならない。なので、あらためてウェブで古書を注文したところだ。

『発禁放禁歌集』には、政治的だったり性的だったりの問題が指摘され、規制された歌の詞が多数掲載されていた。フォークが多くを占めていたと記憶するが、この本のおかげでザ・フォーク・クルセダーズイムジン河」や頭脳警察「銃をとれ」などは音楽を知らないまま、まず詞だけを先に知った。

 同書に詞が掲載された歌のなかには、後に普通に聴けるようになったものもある。私が高校の時に「銃をとれ」を収録した『頭脳警察2』が再発売され、ようやく音に出会えた。一方、それと前後する時期に発表されたアナーキー天皇批判ソング「東京イズバーニング」は「象徴」「殿下」の言葉を消した状態での収録だったとはいえ、当時はNHK FMでも流されたのに、後のCD化では曲自体が外された。そうであっても、今はユーチューブなどで視聴できるが。

 社会や世間の禁忌の基準は、時と場合によって揺れ動く。表現規制についてなにかいいたいのなら、最低限、そのことは意識しておくべきだ。今、ふりかざしている正義が永遠だとは限らない。それを踏まえておかなければ、後の時代にとって大切なものが永遠に失われてしまうことだってある。

本格ミステリ作家クラブ選・編の年鑑ベスト・アンソロジー

 

本格王2019 (講談社文庫)

本格王2019 (講談社文庫)

 

 

 本格ミステリ作家クラブ選・編の年鑑ベスト・アンソロジーの最新刊『本格王2019』が発売された。毎年刊行されるこのベスト・アンソロジーには長いことかかわってきた。

 2001年からノベルス版で刊行が始まり、最初の10年は『本格ミステリ0●』(最後に西暦の下2桁が入る)、2011年からは『ベスト本格ミステリ201●』と題されてきたアンソロジーは、今年から文庫版での刊行に移行しタイトルも『本格王20●●』へと変わった。

 そのうち『本格ミステリ01』には自分の評論「POSシステム上に出現した『J』」が収録されている。『本格ミステリ06』、『本格ミステリ07』、『本格ミステリ08』の3年間は収録作の選考委員の1人となり、解説も書いた。『子ども狼ゼミナール』(『ベスト本格ミステリ2014』の文庫化)でも解説を担当している。

 また、『本格ミステリ06』からは本格ミステリ作家クラブの執行会議メンバーとなりアンソロジー担当を務めた。最初の2年は前任の末國善巳氏の下で動く見習期間だったため本格的にたずさわったのは3年目からだったと思う。なにをするかというと、毎回3名が担当する選考委員に対象となる作品掲載誌を発送すること、作品選考の進行役、選ばれた作家への収録許諾のとりつけ、版元である講談社とのやりとり、印税配分の確認、作家クラブへのアンソロジー関連の報告、ノベルス版の文庫化作業など。

 製作にかかわった本は、以下のものになる。

 

本格ミステリ06』

本格ミステリ07』

本格ミステリ08』

本格ミステリ09』

本格ミステリ10』

『ベスト本格ミステリ2011』

『ベスト本格ミステリ2012』

『ベスト本格ミステリ2013』

『ベスト本格ミステリ2014』

『ベスト本格ミステリ2015』

『ベスト本格ミステリ2016』

『ベスト本格ミステリ2017』

『ベスト本格ミステリ2018』

(いずれも講談社ノベルス

 

 また、以下の文庫版も担当した。

 

『論理学園事件帖』(2003年版の文庫化)

『深夜バス78回転の問題』(2004年版)

『大きな棺の小さな鍵』(2005年版)

『珍しい物語のつくり方』(2006年版)

『法廷ジャックの心理学』(2007年版)

『見えない殺人カード』(2008年版)

『空飛ぶモルグ街の研究』(2009年版)

『凍れる女神の秘密』(2010年版)

『からくり伝言少女』(2011年版)

『探偵の殺される夜』(2012年版)

『墓守刑事の昔語り』(2013年版)

『子ども狼ゼミナール』(2014年版)

『ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選001』(2015年版)

『ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選002』(2016年版)

『ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選003』(2017年版)

『ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選004』(2018年版)

(いずれも講談社文庫) 

 

 このほか、2010年の本格ミステリ作家クラブ10周年記念出版であった『本格ミステリ大賞全選評2001-2010』(光文社)の監修、『ミステリ作家の自分でガイド』(原書房)も担当した。

 

本格ミステリ大賞全選評 2001?2010(第1回?第10回)
 

 

 

ミステリ作家の自分でガイド

ミステリ作家の自分でガイド

 

 

 気づけば13年間でかなりの冊数にかかわっている。そして、『本格王2019』刊行に至ったわけだが、私は同書を最後に執行会議メンバーおよびアンソロジー担当から退任したことをご報告しておく。一人が長期に同じ担当を続けているのはよくないだろうと、数年前から交代を考えていたのである。また、出版環境の厳しさに伴うアンソロジーのリニューアル問題についても、とりあえず次の形が得られた。後任の関根亨氏が、今後のアンソロジー製作を仕切ってくれる。

 

 これまで本格アンソロジーの製作に協力していただいた多くの方々に感謝します。

 

 執行会議とアンソロジー担当は退任したとはいえ、クラブ会員であり続けるし、来年の本格ミステリ作家クラブ20周年にむけて準備していることもある。また、新たな形でこのジャンルとかかわっていきたいと思っている。

矢野利裕『コミック・ソングがJ-POPを作った』からミーコの回想へ

 

コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史 (ele-king books)

コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史 (ele-king books)

 

 

 私が2013年に刊行した『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』のワーキング・タイトルは「音楽遊び」だった。音楽を論ずるとなると、作品としてのアルバムや曲、パフォーマンスのまとまりとしてのライヴを対象とするのが一般的。でも、ただ聴き取るだけでなく、カラオケ、演奏コピー、ダンスやふりまね、音楽ゲームなど日常の遊びの一部として音楽に興ずる機会も多く、テレビやラジオあるいは商店街などむこうから勝手に音楽が流れてくる環境だってある。それゆえ、生真面目な「聴取」以外に力点を置き、執筆当時に話題だったボーカロイドなどネットでの「音楽遊び」を大きく扱ったのが『ソーシャル化する音楽』だった。

 

ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ

ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ

 

 

 興味の方向性をそうだったから、「新しい・珍しい・奇妙」な音楽が「笑い」とともに受容されてきたとして日本のポピュラー音楽史をたどり直した矢野利裕『コミック・ソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』は面白く読んだ。同書には、生真面目な「聴取」からは思い浮かばない音楽史が綴られており、私が2003年に発表した『YMOコンプレックス』にも言及してくれていた。YMOとタモリの関連を書いた部分だ。

 で、『コミック・ソングがJ-POPを作った』を読んでいる最中、YMO関連でべつに思い出したことがある。それは、新しい音楽がノヴェルティ(=新奇)ソングとして受け入れられ親しまれていくことを主題とし、なかでもリズム(歌謡)の持つ力に注目した同書だから呼び覚まされた思い出だった。

 矢野は、YMOのテクノ・ポップがディスコの影響下から出発したことに触れた部分でこう記している。

 

 実際、一九七〇年代後半から一九八〇年代は、ディスコやテクノのフォーマットを適用するかたちで、安易な楽曲が次々とリリースされていた。映画『未知との遭遇』が流行すれば「未知との遭遇のテーマ」(一九七七年)、インベーダーゲームが流行すれば「ディスコ・スペース・インベーダー」(一九七九年)といった具合だ。

 

 

 実は、私が自分から好き好んで音楽を聴くようになったのは、ちょうどこの時期だった。当時は、NHK FMでやっていた映画音楽の紹介番組(タイトル忘れた)をよく聴いていた。「ロードショー」や「キネマ旬報」といった雑誌をめくり、テレビで流れる映画予告編にわくわくしていたものの、映画館に何度も行けるほどのこづかいはもらっていない。そんな中学生は、サウンドトラックを聴くことで映画の内容を想像していたのだ。

 当時は、クラシック的なオーケストラ編成やジャズ的なビッグ・バンド編成のサントラが主流で、たまにロックといった印象だった。だが、ディスコ・ブームがやって来たのである。

 ビージーズに関してはまず、『小さな恋のメロディ』の主題歌“メロディ・フェア”で知った。だからフォークの印象だったわけだけれど、『サタデー・ナイト・フィーバー』の諸曲を聴いた時にはチャラチャラしたディスコに変身していたからたまげた。また、上記のFM番組では、あのオーケストラの響きが仰々しい『スター・ウォーズ』のテーマとともに、それをディスコにアレンジしたミーコのヴァージョンも流したのだ。これがヒットしたミーコは、『未知との遭遇』などもネタにしていたっけ。

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 一方、その頃の私は、パーソナリティのおしゃべりを主体にしたラジオの深夜放送も聞くようになっていたから、合間に流れる洋楽にも親しみ始めていた。そこではクイーン、キッス、イーグルスなどのロックと並行してディスコ・ミュージックが耳に入ってきた。なかには後に電気グルーヴがサンプリングする“ハロー・ミスター・モンキー”や、“ソウル・ドラキュラ”などコミカルな印象の曲も少なくなかった。ベートーヴェンの重々しいあのフレーズをディスコのちょこまかしたリズムにのせた“運命’76(

A Fifth of Beethoven)”など、ギャグとか感じられなかったし。

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 自分が踊りに行くなどという発想のなかった中学生は、自分の部屋で、ノベルティソングとしてディスコと出会ったのである。ディスコ・アレンジに興味を抱いた私は、その手のパロディ風な曲を求め、リメイク版『キング・コング』のジョン・バリーの音楽を日本で改変した“ソウル・キングコング”なんてシングルも買った(『犬神家の一族』で好きになった大野雄二がやっていたからだ)。

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 というわけで、ミーコ版“スター・ウォーズのテーマ”もコミカルなものと受けとめつつ愛聴した。この曲はSF映画らしく、ところどころに効果音的に電子音が使われていた。そして、数年後にSF活劇風のイメージが与えられたYMO“ライディーン”を初めて聴いた時、ミーコ版“スター・ウォーズのテーマ”みたいだと思ったうえで好きになったのである。YMOメンバーは『スター・ウォーズ』やミーコに触れた発言を残していたし、影響関係はあっただろう。“ライディーン”も一つのきっかけとなり、私はテクノ・ポップにハマっていった。

 

YMOコンプレックス

YMOコンプレックス

 

 

「新しい・珍しい・奇妙」な、「笑い」を伴う新しい音楽に悦びを見出していく。中学から高校の時期は、本当にそういう聴きかたをしていたなぁと『コミック・ソングがJ-POPを作った』を読んで思い出したのだった。入口に「笑い」がなかったら、ここまで音楽を聴いていなかったかもしれない。

 

 

最近の自分の仕事

・下村敦史著『フェイク・ボーダー 難民調査官』(文庫化で『難民調査官』を改題)の巻末解説