ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『本心』『箱男』『シン・仮面ライダー』

 

 平野啓一郎『本心』では、主人公が他人の行為を代行するリアル・アバターを職業とする一方、死んだ母を拡張現実の映像&音声で蘇らせ、仮想空間に出入りする。彼はリアル・アバターとして自分の行動を依頼者から監視される一方、自身は現実にはない世

界を覗きこんでいる。

 同作は映画化されたが、やはり今年映画化された安部公房の代表作『箱男』を連想させるところがあった。箱男は、段ボールをかぶって都市風景にまぎれつつ、自身の姿は見られないまま外を覗こうとする。段ボールによって彼に匿名性がもたらされる。

 一方、『本心』の世界において、リアル・アバターの代行という立場は他人をかぶるようなものだし、その他人の目から逃れられない。だが、仮想空間にアクセスする際には、自分の姿を偽れるし、いわば虚構をかぶれるのだ。なにかをかぶること、視線といった『箱男』の要素が、様々な技術の発達によってヴァージョン・アップされている。

 

 また、映画『本心』の主演が池松壮亮だったことは、やはり彼が主演した『シン・仮面ライダー』も連想させた。青年は素顔が隠れる仮面とともに強靭な力を得たことで別人のような行動をとれるようになるが、紆余曲折の末、ほかの人間の意識も彼と同居することになる。他人に行動を把握されるその状態は、リアル・アバターに近い。その設定は、『仮面ライダー』シリーズの出発点である石森章太郎の同名原作漫画を踏襲したものだ(「石ノ森」に改名する前に書かれている)。

 『仮面ライダー』、『箱男』、『本心』と、私が順に興味を持った三作には、共通性があったらしい。このことについては、いずれあらためて書いてみたい。

 

 

最近の自分の仕事

-平野啓一郎が描く近未来の姿――『本心』映画版と原作が問いかける、急速な“近”未来のリアリティ

 https://realsound.jp/book/2024/11/post-1842792.html

『人間の証明』と『限りなく透明に近いブルー』

 先日、町田市民文学館の「森村誠一展」に行ったけど、しばらくして彼の『人間の証明』と村上龍限りなく透明に近いブルー』が、どちらも1976年刊行なのをこれまで意識していなかったことに気づいた。

人間の証明』は敗戦後間もなくの日本人と進駐軍の黒人兵とのかかわり、『限りなく透明に近いブルー』はベトナム戦争中の在日米軍の黒人兵と日本の若者との乱交パーティが物語のポイントとなる。

 

 映画『人間の証明』ではジョー山中が黒人と日本人を両親とする青年役で出演し主題歌も担当したが、彼は『限りなく透明に近いブルー』を埴谷雄高が評していった「ロックとファックの時代」を象徴するシンガー(元Flower Travellin' Band)の1人だった。ベストセラーになった2作は、どちらも日米関係を象徴する内容を持っていた。

 

 

最近の自分の仕事

-松岡正剛は何者だったのか? 「知の巨人」「香具師」……探求続けた“編集者”としての「強さ」と「弱さ」https://realsound.jp/book/2024/11/post-1842785.html

THE MUSICAL BOX

 昨夜のTHE MUSICAL BOX。ピーター・ガブリエル役は、衣裳&かぶりものだけでなくまず歌声がそれっぽかったし、パフォーマンスもよかった。楽器を持ち替えつつ演奏するメンバーたち、照明などの演出とか、初期ジェネシスは実際こんな風だったのではないかというライヴで楽しかった。

 

 その会場でふと気づいたが、私の記名原稿が商業ベースの書籍に初めて載ったのは1999年『ロック温故知新』(遠藤利明名義。業界誌時代に無署名で書籍に執筆したことはあった)。複数ライターの持ち回り連載の書籍化で私の担当がクイーンとジェネシスだった。執筆時に発売された初期レア音源集『Genesis Archive 1967–75』を中心にした原稿である。まさにTHE MUSICAL BOXの時代。そのことを思い出し感慨に浸ったのだった。

あと、会場出ようとした時、キスエクさん御一行に遭遇したので、いっそうよかった(笑)。

 

 

最近の自分の仕事

-映画化で再注目! エンタメから純文学まで『八犬伝』が与えた多大なる影響 https://realsound.jp/book/2024/11/post-1822844.html

-最果タヒ×三宅香帆が語り合う、宝塚ファンの生き様 『ファンになる。きみへの愛にリボンをつける。』対談(取材・構成) https://realsound.jp/book/2024/11/post-1821031.html

-今野敏著『石礫 機捜235』の文庫解説

 

 

転居&子どものいない夫婦関係

 ここでは書き忘れていました。同じ浦安市内ですが、8月末に転居しました。私宛てのお届け物は新住所へお送りください。よろしくお願いします。

 

 下記インタビューの取材・構成を担当しました。


-白石一文が考える、結婚することの意味ーー最新小説『代替伴侶』の思考実験で気づいたこと https://realsound.jp/book/2024/10/post-1819175.html

 

 私は『ディストピア・フィクション論』『ポスト・ディストピア論』で生殖をあつかった物語をずいぶんとりあげたけど、「地球人口爆発宣言」、「生物学的夫婦関係の優越」という設定で、出産の位置づけが変わった社会を舞台にした白石一文『代替伴侶』は、それらとはずいぶん色あいが違う。うちもそうだけど、子どものいない夫婦関係について考えさせられる小説ではある。

 

 

最近の自分の仕事

-新型コロナ、東京五輪、分断国家……ミステリは近年の社会をどう映し出した? ミステリ評論家・千街晶之インタビュー(取材・構成) https://realsound.jp/book/2024/08/post-1757325.html

-有栖川有栖『日本扇の謎』のレビュー → 「ミステリマガジン」11月号

-「ジャーロ」No.96、「アフタートーク 著者×担当編集者」第17回<『家族解散まで千キロメートル』浅倉秋成(作家)×今井理紗(KADOKAWA)>の聞き手・構成

-海老原豊×円堂都司昭×藤田直哉トークイベント「いま、ディストピアユートピアを考える~AI、陰謀論、差別、PC、ジェンダー、オタクの実存~」(9月10日紀伊國屋書店新宿本店)

-「安部公房ピンク・フロイド――壁、写真、川」 → 『現代思想2024年11月臨時増刊号 総特集=安部公房

-海老原豊著『ディストピアSF論』の書評 → 「週刊読書人」2024年10月18日号

-ちくま新書・橋本陽介編集長インタビュー「テーマが問いの形になっていた方が読者は受けとめやすいのではないか」の取材・構成 https://realsound.jp/book/2024/10/post-1810871.html

巽孝之&小谷真理 パーシー・シェリー&メアリ・シェリー

 小谷真理『女性状無意識』(1994年)は出てすぐに読んでいたし、『オルタカルチャー』(1997年)での山形浩生の例の記述をみた際には「!?」となった。巽孝之小谷真理夫妻の関係性と彼らが巻きこまれた騒動は、今年読んだ小川公代『翔ぶ女たち』でも触れられているような、パーシー・シェリーとメアリ・シェリーの時代からあった文筆家夫妻にむけられる周囲の眼の問題の変奏だったのだなと今さら思う。

 

 

 

最近の自分の仕事

-阿津川辰海・井上真偽・空木春宵・織守きょうや・斜線堂有紀『ミステリー小説集 脱出』の紹介 → 「ハヤカワミステリマガジン」9月号

-「アフタートーク 著者×担当編集者 第16回「『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信(作家)×桂島圭輔(東京創元社)の聞き手・構成 → 「ジャーロ」No.95

-呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』、『貴女。百合小説アンソロジー』の紹介 → 「小説宝石」9月号

 

告知

-紀伊國屋書店新宿本店【3階アカデミック・ラウンジ】9月10日(火)18:30〜(18:10開場) 海老原豊×円堂都司昭×藤田直哉トークイベント「いま、ディストピアユートピアを考える」~AI、陰謀論、差別、PC、ジェンダー、オタクの実存~

https://store.kinokuniya.co.jp/event/1722768009/

『異様な者とのキス』のプレイリスト

『物語考 異様な者とのキス』では、論じた物語のミュージカル化に関し、内容を象徴する歌について述べることもしています。いろいろな歌に触れるなかで、章ごとに特に選んだ全6曲(+1曲)は以下の通り。

 

美女と野獣』-”Evermore”

ノートルダムの鐘』-“Made Of Stone”

オペラ座の怪人』-“Masquerade”

『リトル・マーメイド』-“Part Of Your World”

アナと雪の女王』-“Let It Go”

エリザベート』-“Wenn Ich Tanzen Will”

(『蜘蛛女のキス』-“Kiss Of The Spider Woman”)

 

『物語考 異様な者とのキス』で論じた作品の関連曲+執筆中によく聴いた曲のプレイリストはこちら。

https://open.spotify.com/playlist/3iVW2B3LEK1p4JJe6VbNsx?si=5e150b70a84b4cc3

円堂都司昭『物語考 異様な者とのキス』7月24日頃発売

装画=中島華映「夢む」

 

7/19取次搬入

 

【内容目次】
まえがき
第1章 獣性 変身――『美女と野獣
第2章 醜さ 変われなさ――『ノートルダム・ド・パリ』/『ノートルダムのせむし男』/『ノートルダムの鐘』
第3章 仮面 二面性――『オペラ座の怪人
第4章 異族 越境――『ウンディーネ』/『人魚姫』/『リトル・マーメイド』
第5章 異能 暴走――『雪の女王』/『アナと雪の女王
第6章 死 つきまとう――『エリザベート
終章 「異様な者と出会う物語」の周辺
あとがき
参考文献

https://sakuhinsha.com/oversea/30397.html

 

 

 

最近の自分の仕事

-スピーカーに憑いた男子、馬鹿馬鹿しさと切なさと怖さの青春小説 → 金子玲介『死んだ山田と教室』特集 https://tree-novel.com/works/episode/f69ec72ed9d3a43821742ccc0809ecbe.html

-『猿の惑星』著者は日本軍の捕虜になった体験があった――原作から浮かび上がる時代背景とその思潮 https://realsound.jp/book/2024/05/post-1659024.html

-劇作家・唐十郎さん、小説家としての「顔」虚実の境界を弄ぶ“創作術”と迷宮へ誘う“物語” https://realsound.jp/book/2024/05/post-1659772.html

-米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』書評 → 「ミステリマガジン」7月号

-「アフタートーク 著者×担当編集者 第15回「『地雷グリコ』青崎有吾(作家)×和田典子(KADOKAWA)」の聞き手・構成 → 「ジャーロ」NO.94

-初の有料開催となった『文学フリマ東京38』会場レポ。第一回から今回までの歴史を振り返る https://www.cinra.net/article/202305-bunfree_hrtkzm

-東雅夫×天野純希が語る、歴史小説×ゾンビの可能性 異色アンソロジー『歴屍物語集成 畏怖』対談 の取材・構成 https://realsound.jp/book/2024/06/post-1685191.html

-第24回本格ミステリ大賞小説部門、評論研究部門の選評 → 「紙魚の手帖」vol.17

-小説編集者の仕事とはなにか? 京極夏彦森博嗣のデビューを世に問うた編集者・唐木厚インタビュー https://realsound.jp/book/2024/06/post-1689504.html

-『難問の多い料理店』刊行記念 対談 結城真一郎×TAIGA(お笑い芸人)の取材・構成 → 「小説すばる」7月号 https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/the_ghost_restaurant2/

-BLの源流『JUNE』元編集長・佐川俊彦インタビュー「女の子は美少年の着ぐるみを着ると自由になる」https://realsound.jp/book/2024/06/post-1699528.html

-筒井康隆大江健三郎村上春樹阿部和重、小川哲……『百年の孤独』が日本文学に与えた多大な影響 https://realsound.jp/book/2024/07/post-1703931.html