平野啓一郎『本心』では、主人公が他人の行為を代行するリアル・アバターを職業とする一方、死んだ母を拡張現実の映像&音声で蘇らせ、仮想空間に出入りする。彼はリアル・アバターとして自分の行動を依頼者から監視される一方、自身は現実にはない世
界を覗きこんでいる。
同作は映画化されたが、やはり今年映画化された安部公房の代表作『箱男』を連想させるところがあった。箱男は、段ボールをかぶって都市風景にまぎれつつ、自身の姿は見られないまま外を覗こうとする。段ボールによって彼に匿名性がもたらされる。
一方、『本心』の世界において、リアル・アバターの代行という立場は他人をかぶるようなものだし、その他人の目から逃れられない。だが、仮想空間にアクセスする際には、自分の姿を偽れるし、いわば虚構をかぶれるのだ。なにかをかぶること、視線といった『箱男』の要素が、様々な技術の発達によってヴァージョン・アップされている。
また、映画『本心』の主演が池松壮亮だったことは、やはり彼が主演した『シン・仮面ライダー』も連想させた。青年は素顔が隠れる仮面とともに強靭な力を得たことで別人のような行動をとれるようになるが、紆余曲折の末、ほかの人間の意識も彼と同居することになる。他人に行動を把握されるその状態は、リアル・アバターに近い。その設定は、『仮面ライダー』シリーズの出発点である石森章太郎の同名原作漫画を踏襲したものだ(「石ノ森」に改名する前に書かれている)。
『仮面ライダー』、『箱男』、『本心』と、私が順に興味を持った三作には、共通性があったらしい。このことについては、いずれあらためて書いてみたい。
最近の自分の仕事
-平野啓一郎が描く近未来の姿――『本心』映画版と原作が問いかける、急速な“近”未来のリアリティ