菊地成孔と大谷能生の『憂鬱と官能を教えた学校』TV

憂鬱と官能を教えた学校法月綸太郎ミステリー塾 海外編 複雑な殺人芸術法月綸太郎ミステリー塾 国内編 名探偵はなぜ時代から逃れられないのか
活字倶楽部」2005冬号の「特集マイベストブック2004」の作家アンケートで法月綸太郎は、04年に読んだ小説以外の本で印象に残ったものとして、大塚英志『「おたく」の精神史 一九八〇年』、五十嵐太郎『過防備都市』などとともに、菊地成孔大谷能生『憂鬱と官能を教えた学校“バークリー・メソッド”によって俯瞰される20世紀商業音楽史』をあげていた。このセレクトはちょっと意外だったので、今でも覚えている。
法月の音楽的趣味というと、キング・クリムゾン、パンク、グランジなどのイメージだったので、最初はなんでジャズ中心の音楽理論書を? と思った。でも、同書の内容を考えれば、すぐ納得できるセレクトなのだ。
『憂鬱と官能』は、バッハ《平均律クラヴィーア》からバークリー・メソッドへという流れをめぐり、記号/形式/ルールとしての音楽の理論化の欲望史を論じた本である。そこで、菊地+大谷は音楽の記号化=商業化に関し、十二等分平均律 → バークリー・メソッド → MIDIという推移をみてとっていた。
一方、法月が属する本格ミステリというジャンルには、ノックスの十戒ヴァン・ダインの二十則など、謎解き小説としてのルール化が目指された歴史がある。それに関し、法月は、柄谷行人によるゲーデル問題論議を応用した後期クイーン問題論において、本格ミステリの形式性、ルール性をつきつめて考察していた。そんな彼のことだから、ジャンルの理論化という面で『憂鬱と官能』に興味を持ったのは、よく理解できるのだ。
(同時に、エラリー・クイーンフレデリック・ダネイ+マンフレッド・リー)という合作ユニットを信奉する法月が、実際には二人で喋った講義をいつも一人称の文章で本にまとめる菊地+大谷コンビのありかたに惹きつけられたところもあっただろう)


そして、僕は、(法月もそのなかに含まれる)新本格ムーヴメント以降の国内ミステリの推移を論じてきた一人である。また、音楽系評論の自著『YMOコンプレックス』(2003年)では、テクノ/MIDI的なものと新本格の手法の親近性を指摘してもいた。というわけで、当然、菊地+大谷の『憂鬱と官能』には関心を持ったし、面白く読んだ(難解さもある音楽理論の解説をすべて呑みこめたわけでないけれど)。


『憂鬱と官能』は、この5月に文庫化されることになっている。また、同書をモチーフにした番組「菊地成孔大谷能生の『憂鬱と官能を教えた学校』TV」の放送が、フジテレビNEXTで今夜21:00からスタートする。
http://www.fujitv.co.jp/otn/b_hp/910200038.html
全12回の講義を収録する同番組は、事前に聴講生を募集していた。それをナタリーで知った僕は、即座に応募し、幸運にも当選したのだった。
というわけで、僕はこれから1年間、菊地先生と大谷先生の生徒の一員です。いろいろ学びたいと思います。

ついでに、菊地先生と大谷先生、僕や『バンド臨終図巻』共著メンバーが執筆、コメントしたムックもご紹介。

加藤和彦 あの素晴しい音をもう一度 (文藝別冊)

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