ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

萩原朔太郎『猫町』、「イクスピアリ・ニンテンドーDSガイド」

(「文蔵」5月号)

文蔵 2009.5 (PHP文庫)猫町 他十七篇 (岩波文庫)
http://www.php.co.jp/bunzo/
石原千秋が「文蔵」で、「この名作を知っていますか 近代小説の愉しみ」というエッセイを連載している。最新号に掲載された第七回は、「逆さまから見る世界〜萩原朔太郎猫町』」。萩原の同作を出発点にして、カレン・カプラン『移動の時代』、ジョン・アーリ『場所を消費する』『観光のまなざし』、小森陽一ほか編『メディア・表象・イデオロギー』などに言及しつつ、旅、旅行、ツーリズムに関する随想を繰り広げている。
石原は、『猫町』を要約した部分でこう書いている。

道に迷うといつもの町が「私の知らない何所(どこ)かの美しい町」に変容したが、「記憶と常識が回復」すれば、それは「ありふれた郊外の町」にすぎなかった。しかし、「何所かの美しい町」がいつもの道を逆方向から見るために、「宇宙の逆空間に実在」したことを発見した「私」は、「故意に方位を錯覚させて、しばしばこのミステリイの空間を旅行し廻った」。

一方、石原は地図をめぐって若林幹夫『地図の想像力』を引きながら、次のように記す。

僕たちは、自分の位置する空間の「全域」を実際に見ることはできない。しかし、「東西南北」という方位によってそれを「想像」することはできる。

若林−石原の指摘するこのこと↑をシステム化したものが、GPSだろう。


さて、今回の石原のエッセイから連想したのが、任天堂オリエンタルランドが共同で始めた新サービス「イクスピアリニンテンドーDSガイド」である。
http://www.olc.co.jp/news_parts/20090413_01.pdf
東京ディズニーランドに隣接するショッピング・モール「イクスピアリ」では、通路を規則正しい配置にはせず、あえて迷いやすいような構造にしている。そうすることで、路地の雰囲気、回遊性を高めているのだ。
その場所へさらに、「ニンテンドーDS」によるゲームや妖精といった情報、イメージを重ね、ショッピング・モールを何所かの美しいミステリイ空間にしてしまおうというわけである。
一方、任天堂は、『テーマパークDS』という遊園地経営シミュレーションも販売している。
テーマパークDS
ひょっとすると将来は、イクスピアリだけでなく東京ディズニーランド東京ディズニーシーについても、それぞれの場所に対応した「ニンテンドーDSガイド」を作ろうなんて腹づもりもあるのだろうか?
東京ディズニーランドに最近、モンスターズ・インクのアトラクションが追加されたことが話題になっている。テーマパークは新しい施設、新しいショーを随時追加していかなければ飽きられる宿命がある。追加投資を惜しむわけにはいかない。
それを考えると、「ニンテンドーDSガイド」のような、現実空間に対するイメージの重ねあわせ路線を強化していけば、新アトラクション追加に準ずる営業効果をあげられるかもしれない。そんな考えが育ってもおかしくない。
東京ディズニーリゾートという”ネズミ町”は、ミステリイ空間であり続けなければならないのだから。