ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

斉藤守彦『映画宣伝ミラクルワールド』

なぜかテーマ曲のシングルを買った『キングコング』ではなく『カサンドラクロス』を観に行き、『サスペリア』に熱中した私なので、懐かしく読んだ。本書で触れられている映画で他に印象に残っているのは、『ナイル殺人事件』、『エレファント・マン』、『ネバーエンディング・ストーリー』、『ラストエンペラー』など。
サスペリア』の「決してひとりでは見ないで下さい」の惹句に代表される、独立系配給会社のハッタリかました宣伝の世界が書かれている。外国の作品に関し、日本用の題名を与え、日本用にイメージを加工する。それが時に大人気となり、良かれ悪しかれ、ある種のカルチャーを形成していた。
このエネルギッシュなノリは、和久井光司『『at武道館』をつくった男 ディレクター野中と洋楽ロック黄金時代』に記された70年代洋楽のプロモーションのありかたとも近い。エアロスミスの『TOYS IN THE ATTIC』に『闇夜のヘヴィ・ロック』、チープ・トリックの“I WANT YOU TO WANT ME”に“甘い罠”の邦題を与え、キッスのアルバムを『地獄』シリーズにしてしまったあの悪ノリの感覚。
和久井の本には外国音楽ではない「日本洋楽」という印象的な表現が出てきたが、その意味で『映画宣伝ミラクルワールド』が語っているのは「日本洋画」の世界だろう。
70年代には、映画チラシを収集するブームがあった。角川映画のメディアミックスもあった。また、80年代はコピーライター人気など、広告への注目が集まった。そのように広告宣伝に妙な活気があった時代の面白い記録。
『at武道館』をつくった男 ディレクター野中と洋楽ロック黄金時代


ジャーロ NO.49 冬号 (光文社ブックス 111)
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