ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

和楽器バンド『ボカロ三昧』、ボーカロイドと邦楽

メンバーに和楽器演奏者のいるバンドが、ボカロ曲をカヴァーした和楽器バンド『ボカロ三昧』。自分の予想、期待した方向性とは違っていたけれど、打ち込み主体のデジタル色強いボカロ曲を和楽器のアナログな響きへと変える試みは楽しい。骨格となるロック・バンドとしての音をもう少し抑え、主役であるはずの和楽器をより前面に出してほしい気はするが。

ボカロ三昧

ボカロ三昧

以前、「美術手帖」のインタヴューで冨田勲は、文楽人形浄瑠璃)から辻村寿三郎などに続く日本の人形劇の伝統を、初音ミクは受け継いでいると語っていた。また、ボカロ曲“メルト”で文楽人形を踊らせたイベントもあった。
そうしたことからすると、ボーカロイドと邦楽の組みあわせでありそうなのは、文楽義太夫、あるいは文楽を元にした演目(丸本物)も多い歌舞伎で義太夫以外に使われる常盤津、清元、長唄あたりかと思った。
一方、ボカロ曲からはボカロ小説が多く書かれていて、物語に彩られた領域でもある。それに対し、物語を舞台で演じる文楽や歌舞伎では楽器以外にも、場面の始まりと終わりを知らせ、アクションの効果音としても鳴らされる拍子木が、音響面での大きなポイントになっている。
しかし、和楽器バンドの和楽器は、三味線は文楽、歌舞伎の系列ではない津軽三味線であり、尺八、箏、和太鼓も舞台系の楽器、奏者ではない。文楽、歌舞伎の系統ではなく、郷土芸能やお稽古事として伝わり、その後、現代化してきた邦楽をロックのスタイルにとりいれたのが和楽器バンドといえそうだ。
で、私の勝手すぎるないものねだりをいってしまえば、ボカロ曲は物語性を帯びているのだから、文楽、歌舞伎的なアレンジ、舞台の下座音楽、鳴物的な音響の演出(打音では鼓、拍子木にポイントがあるような)も聴いてみたいと思う。
こんなことを思ってしまうのも、ボカロの名曲“千本桜”の題名が元をたどれば文楽でも歌舞伎でも有名な『義経千本桜』であり、同曲を和楽器バンドがカヴァーしていたからだった。

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