ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『塔の上のラプンツェル』と『アナ雪』

ディズニー映画に関し、今年の大ヒット作『アナと雪の女王』を観た後に2010年の『塔の上のラプンツェル』を観ると、共通点と相違点がいろいろあって興味深い。
まず、ヒロインをみると、ラプンツェルの髪には、若返りや長生き、傷の治癒をもたらす不思議な力がある。だから、その力を独占しようとしたマザー・ゴーテルに誘拐されるし、髪がラプンツェルに商品価値を与えてもいる。これに対し、『アナ雪』のエルサは、周囲を凍らせ、雪を降らせる力を持つ。彼女は力をコントロールできないゆえに怪物扱いされ、山に引きこもることを選択する。力の所有は、エルサにとって負の刻印となっている。
ラプンツェル』では、ゴーテルによって閉じ込められていた塔からラプンツェルが脱出するのが、前半の見せ場となる。逆に『アナ雪』では、周囲から恐れられたエルサが一人で山に登って行き、氷の宮殿を出現させ、自ら閉じこもるのが前半のクライマックス。
二人に与えられた力の質や前半の展開の違いは、対照的だ。ただし、共通点も多い。
ラプンツェルにはカメレオンのパスカルという相棒がいるのに対し、『アナ雪』ではエルサとダブル・ヒロインであるアナに雪だるまのオラフという相棒がいて、彼はもともとエルサが生み出したものだった。また、『ラプンツェル』の恋人役である泥棒のフリン・ライダーは、最初敵対していた白馬のマキシマスとやがてコンビを組む。一方、アナに協力する氷売りのクリストフは、トナカイのスヴェンと行動している。
二作品には、パスカルとオラフ、ライダーとクリストフ、マキシマスとスヴェン。それぞれ似た役回りのキャラクターが登場している。
さらに、『ラプンツェル』は誘拐、『アナ雪』は死別という形で、ヒロインが父母と引き離されるところから物語が始まる点も共通している。
そして、『アナ雪』の場合、恋愛の要素は小さくないものの、姉妹の関係がより主要なテーマになっていた。これに比べ、『ラプンツェル』では、ライダーとの恋愛と、贋の母ゴーテルからの親離れがからみあった形で物語が進む。ラプンツェルが直接殺すわけではないが、彼女の反抗が結果的にゴーテルを死に追いやる。誘拐犯であったとはいえ、育ての母を親殺しする『ラプンツェル』の母子関係描写には、ただのおとぎ話ではない生々しさがある。こういうところは面白い。
二作品ともヒロインたちが主体的に行動し、自ら決断しており、待っているだけの、受け身のお姫様像から遠いところにある。
とはいえ、ゴーテルの死後、ラプンツェルは王と王妃という本来の父母と再会し、王室の一員になる。『アナ雪』のエルサも国に帰った後は、亡き父の王位を長女として継ぐ。彼女たちの生育の過程であった複雑な出来事は度外視され、とにかく王室の血統が維持されてめでたしめでたしで終わる。結末に至って、一挙にただのおとぎ話になってしまう。この点に疑問は感じるが、そうしなければ現実になりすぎる、ディズニーのファンタジーにならないといわれれば、そうですかというしかない。