ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『エスケイプ・フロム・トゥモロー』

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米国ディズニーワールドでゲリラ撮影し、あの「夢と魔法の王国」のアナザーサイドを描いた映画。良きパパであるべき男は家族でディズニーに行ったが、会社からクビを宣告される。パーク内で彼は、酒を呑んで吐き、異様なものたちを見ておびえ、若いフランス娘たちを執拗に追いかけ、出会った熟女とベッドインし、自分の割ったビール瓶のかけらで足を傷つけて血を流す。そして、猫インフルエンザ流行の話を耳にする。暴力、セックス、酒、疫病、妄想、恐怖。この映画には、非ディズニー的なネガティヴな要素が盛り込まれている。
しかし、このようにも解釈できるだろう。
妻に公衆の面前でのキスを拒否され、他の女への欲望を膨れ上がらせる主人公は、「真実の愛のキス」を見失っている。誘拐された幼い娘が死んだように横たわっていたが、眠っているだけであり、パパにキスされる。こちらは『眠れる森の美女』のパロディだ。
そして、主人公を誘惑し娘を連れ去った魔女的な熟女は、以前はパーク内でプリンセスを演じるキャストだったという。彼女はプリンセスとしてハッピーな世界にいたが、ある日、笑わない子どもに出会ったことで錯乱し、プリンセスでいられなくなった。映画ではプリンセスについて「誰とでもハグする高級娼婦」と揶揄するくだりもある。ディズニー的な女性キャラクターの風刺という点では、『マレフィセント』に通じるところがある。
失職や泥酔の要素は、『ウォルト・ディズニーの約束』にもあったし、夢と現実の落差の暴露は『魔法にかけられて』のテーマでもあった。近年のディズニー映画におけるディズニー的なものへの自己批評と、『エスケイプ・フロム・トゥモロー』がディズニーに向ける皮肉な視線は、意外に近しい要素を含んでいる。だから、パークをゲリラ撮影したこの映画をディズニー側が黙認していることも、理解できる気がする。