ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

広瀬隆『危険な話 チェルノブイリと日本の運命』

危険な話 チェルノブイリと日本の運命

危険な話 チェルノブイリと日本の運命

単行本書き下ろしのための資料として1987年刊『危険な話』を読む。原発の危険を説いて一種のブームを起こした本だが、必要以上に恐怖心を煽る語り口だ。
後半になるとユダヤ系のロスチャイルド家の陰謀を説き、トンデモ本としての性格を露わにする。陰謀に関わる海外の国として、南アフリカイスラエルが重点的に言及される。そして、ロスチャイルド家と中東のイスラエルとの関係に触れた部分で、次の文章が出てくる。

ここでお断りしておきますが、ユダヤ人=ロスチャイルドではありませんよ。それでは私たちもヒットラーになってしまう。ユダヤ人のなかにロスチャイルド家があったにすぎない。ロスチャイルドアンネ・フランクを一緒にして“ユダヤ人”と呼んではいけません。国境や民族による分類が、この世で最も危険な発想です。私は、中曽根康弘と同じ“日本人”ではありません。

海外情勢に対する憶測と日本の政権に対する不満が、からみあっての発言。このようなノリは、イスラム国による日本人人質事件が大きく報道されて以降のツイッターなどの反応にもみられるものだ。広瀬隆がブームになった1980年代にもあったタイプの反応が、現在はSNSで増幅されている。
そこでは、人質である後藤健二氏の解放を願って「アイ・アム・ケンジ」のメッセージを掲げる動きがある一方、安倍晋三政権の安全保障・外交政策への批判から「アイム・ノット・アベ」を唱える人もいる。強いリーダー像への意欲、原発推進など、中曽根と安倍のキャラクターには近い部分もある。「アイム・ノット・アベ」に「アイム・ノット・ナカソネ」が、重なりあってみえる。

  • 最近の自分の仕事
    • 阿部和重伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』、近藤史恵『私の命はあなたの命より軽い』の書評 → 「小説宝石」1月号
    • サブカルチャー季評(とりあげたのは『進撃の巨人』) → 読売新聞1月17日付夕刊
    • 新刊めったくたガイド(とりあげたのは、北山猛邦『オルゴーリェンヌ』、麻耶雄嵩『化石少女』、森谷明子『花野に散る 秋葉図書館の四季』、一田和樹『絶望トレジャー』、知念実希人『仮面病棟』、川辺純可『焼け跡のユディトへ』) → 「本の雑誌」2月号
    • 2014ベストセラーななめ読み座談会(石井千湖×円堂都司昭×西森路代×速水健朗) / ジャンル別レビュー−単行本ノンフィクション / 中村文則『教団X』の書評 → 「月刊宝島」3月号
    • 葉真中顕『絶叫』の短評 → 「ハヤカワミステリマガジン」3月号
    • 80年代の洋楽雑誌をめぐって → 『80’S 洋楽読本』 (この私の記事はウェブでも公開 http://realsound.jp/2015/01/post-2326.html