ピンク・フロイドは1979年に『ザ・ウォール』を発表し、ライヴ中のステージにパフォーマーと観客を隔てる壁を築き、最後にそれを崩すという大がかりな演出を行った。米ソの東西冷戦構造の最中であり、ベルリンの壁が崩れることなど想像できなかった時代のことである。
同アルバムの制作を主導したロジャー・ウォーターズは、冷戦が終結へとむかうなか、89年にベルリンの壁が実際に崩壊したその翌年に、ベルリンで『ザ・ウォール』再現ライヴを実施した。その最後には、新曲“流れが変わる時〜ライヴ・エイドが終わって〜 The Tide Is Turning”を演奏した。
ウォーターズは2010年以降、同時代の世界情勢も演出にとりこみつつ、『ザ・ウォール』再現ツアーを敢行した。
しかし、世界の流れはまた変わりつつある。
イギリスがEUからの離脱を国民投票で決定した。この件には、ベルリンの壁が崩壊した時のような、ショックを受けた。移民の流入に反発した民衆は、外部と線を引いて独立性を高めることを望んだのだ。アメリカでは、移民の流入を止めるためメキシコとの国境に壁を作ると放言するドナルド・トランプが人気を得ている。安倍政権下の日本では自国礼賛ムード、嫌韓嫌中ムードが漂っている。
ならば今、ウォーターズは再び『ザ・ウォール』再現ライヴを実施し、最後の壁を崩すべき場面で崩さない演出をしたらどうか。そして、イギリス公演ではEU離脱派の中心人物ボリス・ジョンソン、アメリカ公演ではトランプの被り物をして“流れが変わる時”の替え歌でも歌えばいい。ベタな風刺だが、話題にはなるだろう。
――てなことを、昨日から夢想している。
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