実写映画版『美女と野獣』

映画ではベルの住んでいる村は、物語の原作者にちなみヴィルヌーヴ村と名づけられている。それだけにベルに姉妹がいたヴィルヌーヴ夫人版、ボーモン夫人版の物語とディズニー版の違いを意識してしまった。両夫人版では、遊び好きで意地悪な姉たちに対し、ベルはよく家事をして気立てもよい、良妻賢母型の性格が与えられている。この設定のままでは『シンデレラ』と差別化できないから、ディズニー版は姉の存在を割愛したのだろう。
両夫人版の場合、ベルの父は商人として成功していたが没落し、貧乏になったという設定である。かつてはその社会に適合していた一家が、経済的失敗ゆえに社会の周縁に追いやられたが、末娘はその社会で推奨される古典的な道徳観(人にやさしく、家族を大切にする)を保ち続けている。その性格によって野獣と住むことになった苦境を切り抜けるという図式だ。
一方、ディズニー版では読書家のベルも発明家(アニメ版)/オルゴール職人(実写版)である彼女の父も、村では変わり者あつかいされている。ベルとビーストは、読書好きという共通項に加え、変わり者同士が同病相憐れむことで接近する展開なわけだ。このため、両夫人版とは受ける印象がかなり違う。
また、アニメ版以上に実写映画版では、ベルの自由を求める心情が強調される。それに対し、彼女の解放を自ら決断したビーストは塔にこもり衰弱していく。ひきこもってベルが再び会いに来てくれることを願っているビーストは、まるで王子の来訪を待ち続ける昔話のお姫様のようだ。かつての昔話の定型とは、男女の役回りが逆転している。
そして、『モアナと伝説の海』のモアナもそうだったが、『美女と野獣』のベルにも「私はプリンセスじゃない」(これはアニメ版から)というセリフが用意されている。このへんは『アナと雪の女王』で顕著になった、ディズニーにおける女性像の見直しが表れたセリフだろう。


最近の自分の仕事

死と砂時計 (創元推理文庫)