ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

ロジャー・ウォーターズ

SFマガジン」6月号に、B&Bで2月10日に行われた山形浩生大森望の対談の採録ディストピアSFのゆくえ」が掲載されている。興味はあったが都合で行けなかった催しだ。この対談記事のなかで大森は次のように語っている。

ニューヨーク大学で教育学の先生をしていたニール・ポストマンというメディア学者が、一九八五年に自著の序文で、みんな『一九八四年』を警戒して、結果オーウェル的な未来はこなかったといって安心したけど、警戒しないといけないのは『一九八四年』ではなく、『すばらしい新世界』のほうだということを書いていた。テレビによる情報の洪水、くだらない情報が山ほど流されることによって、人間がものを考えなくなる。むしろそっちのほうが現実じゃないかという。

なぜか大森はここでポストマンの著書名をあげていないけれど、これは2015年に『愉しみながら死んでいく 思考停止をもたらすテレビの恐怖』の邦題、今井幹晴訳で日本でも刊行された「AMUSING OURSELVES TO DEATH」のことだろう。
それは、ロジャー・ウォーターズのコンセプト・アルバム『死滅遊戯 Amused To Death』(1992年)にヒントを与えた本であり、今井幹晴はピンク・フロイドの評伝であるN・シャフナー『神秘 ピンク・フロイド』の訳者でもあった。

愉しみながら死んでいく ―思考停止をもたらすテレビの恐怖―

愉しみながら死んでいく ―思考停止をもたらすテレビの恐怖―

死滅遊戯 (2015)

死滅遊戯 (2015)

ウォーターズは、オーウェル動物農場』から着想を得たと思われるピンク・フロイド『Animals』で創作の中心にいた。そのことを考えると、彼もまたオーウェルからハクスリーへと思考を転換した1人だったといえるかもしれない。


昨年、ウォーターズがメキシコ公演で『Animalsアニマルズ』の“Pigs(Three Different Ones)”を演奏した時の映像がこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=QWLBtMz5OuY
「豚=トランプ」というわかりやすい演出。『THE WALL』をピンク・フロイドの代表作にしたロジャー・ウォーターズとしては、「壁々」とほざいていたトランプはかっこうの標的だったわけだ。
(メキシコ公演のセットリストはこちら↓
http://www.setlist.fm/setlist/roger-waters/2016/foro-sol-mexico-city-mexico-4bfddb6e.html
トランプという手頃な敵をみつけた最近のウォーターズは、ますます元気になったようで新作をレコーディングし、新たなライヴ活動に乗り出した。そのツアーは「US+THEM」と題されている。遡れば『狂気』収録の“Us and Them”には、人々の対立をテーマにした詞が付けられていた。また、もともとは映画『砂丘』の暴動のシーン用にリチャード・ライトが作ったものの却下された曲の断片が、後に“Us and Them”へと発展したのだった。
ツアー・タイトルの「US+THEM」には、ウォーターズが現在の世界をどう感じているかや、彼の戦闘的な気分が反映されていると感じられる。
終ったばかりの5月26日カンサス公演のセットリストは、こちら。
http://www.setlist.fm/setlist/roger-waters/2017/sprint-center-kansas-city-mo-7be7c6a8.html
『Animals』から“Dogs”、“Pigs”を演奏したほか、『The Dark Side of the Moon』、『The Wall』を中心とした選曲の大枠は、メキシコ公演を含む昨年のライヴと大きく変わってはいない。そこに、間もなくリリースされる新作『IS THIS THE LIFE WE REALLY WANT?』からの数曲が加えられている。現在の国際情勢からすると『Amused To Death』の曲も入れればいいのにと思うものの、商業的要請としてフロイドの曲優先のセットリストになるのはしかたないだろう。
ぜひ、今の彼のライヴを見たいと思う。日本公演はないのかな?

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ミステリマガジン 2017年 07 月号[雑誌]