ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

映画『わたしを離さないで』

原作者カズオ・イシグロが製作総指揮の1人に名を連ねているためか、わりと小説版に沿った映画化(2010年版)。ただ、タイトルにもなっている「わたしを離さないで」という曲をキャシーが聴く場面の位置づけが違う。
原作ではそのテープは一度失われ、後にトミーが買い直してくれるのだが、映画では最初からトミーからもらったとされる。また、曲にあわせてキャシーが体を揺らしているところを覗き見するのは原作ではマダムなのに対し、映画ではルース。結婚も家族を作ることもできない運命にあるキャシーが、歌詞にある「ベイビー」について恋人ではなく赤ん坊だと勘違いしていたことも映画では触れられていない。原作よりもSF的設定が後景に退き、キャシー、ルース、トミーの三角関係が強調され、映画全体としても恋愛の比重が大きい仕上がりになっている。
ヘールシャムの子どもたちに真実の一端をもらすルーシー先生役は、サリー・ホーキンス。社会によって勝手に存在のありようを規定され疎外された立場へのシンパシーという点では、本作の役回りは、半魚人と恋に落ちた『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)のヒロイン役に通じる面があったかも。