ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

下井葉子「あなたについて わたしについて」





芥川賞候補作のノンフィクション流用問題で思い出したのが、同じく群像新人文学賞を1987年に受賞し、「群像」の同年6月号に掲載された下井葉子「あなたについて わたしについて」。浦安市の図書館になかったのだが、気になったので千葉市の図書館で借り出してきた。
この受賞作は単行本化されなかったのだが、大量の引用というかサンプリングをしていて、ネタ元(三島由紀夫コクトー浅田彰紡木たくスクリッティ・ポリッティ……)も明記されていた。断章形式のこの作品には、J・ノペティというレプリカントが登場したり(当時流行したエリック・サティジムノペディ”のもじり)、「去年、マリオンビルで」という章題があったり(『去年マリエンバードで』のもじり)。
「あなたについて わたしについて」を推した選考委員は柄谷行人で、その選評は「ニューロマンティックな方向」と題され、文中には「neuromantic」なんて言葉も出てきた。80年代初頭のニューロマンティック(ヴィサージ、デュラン・デュランなどの英国エレポップ)−高橋幸宏『NEUROMANTIC ロマン神経症』(1981年)−ウィリアム・ギブスンニューロマンサー Neuromancer』(1986年翻訳)てな時代であった。
とてつもなく80年代的なポスト・モダン小説だったし、この頃の音楽を聴き返したりすると、たまに「あなたについて わたしについて」を思い出す。特に作中で“Night Porter”の歌詞が引用されてるJapanとか。