松本清張と百田尚樹

 人気小説家でありつつ、自身の史観をノンフィクションとして語る。歴史学者からの批判はあっても、大衆や出版界は人気小説家に一目置き続けている。

そのようなありかたにおいて、今の百田尚樹って、松本清張の受け入れられ方とかぶってないか? と、この本を読みつつ思った。 

「松本清張」で読む昭和史 (NHK出版新書)

「松本清張」で読む昭和史 (NHK出版新書)

  • 作者:原 武史
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 単行本
 

 

 ミステリ評論の分野では、「探偵小説を私は『お化け屋敷』の掛け小屋からリアリズムの外に出したかった」という清張発言にそって、彼を社会派のリアリズムと位置づけることが定式化してきた。

 ただ、小説はそうだとしても、清張の昭和史ノンフィクションに関しては、歴史学やノンフィクションの専門家から、GHQ謀略説に傾きすぎだと批判されてきたのだ。つまり、リアルではないと。その意味で清張は、昭和史を陰謀論のおどろおどろしさで彩られた「お化け屋敷」に入れたともいえるのではないか。

 ミステリの偉人として清張を扱った評論や評伝は最近よく刊行されているが、それらでも彼のノンフィクションにみられる偏向は指摘されている。原武史『「松本清張」で読む昭和史』の場合も、資料や証言者にまめにあたった綿密な調査、タブーを恐れず、タコツボ化する学問にはないスケールの大きな視野などを高く評価すると同時に、やはり不正確な内容を含むことに言及している。

 百田尚樹に関しても、小説がベストセラーになる一方、右翼的な陰謀史観による『日本国紀』が専門家からは批判されつつ、未だ多くの支持者を抱えているわけだ。専門家が記す堅苦しい歴史より、物語的な楽しめる歴史のほうがいい。そんな受容のされかたが、清張と重なる。『乱歩と清張』(郷原宏)、『乱歩と正史』(内田隆三)、『江戸川乱歩横溝正史』(中川右介)のように二作家カップリングの評伝が近年、相次いでいるが、百田と清張を対比して評するのもありではないか。ふと、そう考えたのだった。

 

 

最近の自分の仕事

-日本推理作家協会編のアンソロジー二分冊『沈黙の狂詩曲 最新ベスト・ミステリー』『喧騒の夜想曲 最新ベスト・ミステリ』の編纂委員、後者の序文

-「夜明けの紅い音楽箱」(とりあげたのは阿部和重『Orga(n)ism オーガニズム』)、探偵小説研究会のミステリを編みたいっ!(ベスト本格ミステリ21世紀) → 「ジャーロ」No.70

-テッド・チャン『息吹』、歌野晶午『間宵の母』、坂口恭平『まとまらない人 坂口恭平が語る坂口恭平』の紹介 → 「モノマスター」2020年2月号

-村田沙耶香『変半身』、穂波了『月の落とし子』の紹介 → 「小説宝石」2020年1月号 https://www.bookbang.jp/review/article/600313

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