金承哲『痕跡と追跡の文学』読了。遠藤のキリスト教文学が、探偵小説の手法をいかにとり入れていたかを論じている。まどろっこしい記述に難はなるが、着眼点が面白く、興味深く読んだ。
終章は『沈黙』の分析である。
私も『ディストピア・フィクション論』でも触れたけど、安倍晋三は『沈黙』を愛読書に挙げていて彼名義の新書『美しい国へ』にはこうある。
なにかに帰属するということは、そのように選択を迫られ、決断をくだすことのくりかえしである。
身の処し方といいかえてもよいが、そういう人の人生には張りがある。
他の場に出された安倍名義の愛読書に関する文章でもこんな感じだ。
漢字も言葉もろくにわかっていない安倍だから文学など読めるはずがない。
踏絵で棄教を迫られる『沈黙』は、政治的な転向との類比でむしろ左翼的な観点から読まれることのほうが多かった。そもそも安倍向きではない。選択や決断が困難な弱い人間に弱いキリストが寄り添う。幻視されたその光景に希望を託す。遠藤が描く信仰のありかたは、そのようなものだ。
「身の処し方」とか「そういう人の人生には張りがある」なんて勇まし気な内容では、まるでない。
それはともかく、『遠藤周作と探偵小説 痕跡と追跡の文学』は、いろいろ示唆されるところがあったので、同書から考えたことはいずれあらためて書いてみたい。
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