※備忘録を兼ねて結末までネタバレ全開で書いています。
12月26日、物の怪エンターテイメント企画「妖-AYAKASHI-」第九回本公演「幻想夢現八犬伝」を観た。曲亭馬琴『南総里見八犬伝』を原作とする舞台だが、槻城耀羅(演出&犬坂毛野役も)の脚本は、様々なアレンジを施していて、そうきたか! という面白さがあった。
物語は、姉妹喧嘩から始まる。それが伏姫と玉梓であることにいきなり驚かされる。そもそも原作ではそれぞれが生きた時代が違うし、里見家の姫と里見を怨む者の敵味方でまったく違う場所にいる。だが、本作で彼女たちは人間ではなく妖であり、玉梓によって瀕死状態にされた伏姫は、自分を助けてくれた里見義実に忠誠を尽くす。
原作『八犬伝』は伏姫と猛犬八房との異類婚姻譚を発端とする。一方、「幻想夢現八犬伝」は、伏姫が実は妖犬八房であるという設定であり、さらに驚く。金碗大輔(ゝ大法師)は、その従者とされる。
安西景連とともにいた玉梓は伏姫に傷つけられ、里見家を呪う。玉梓の怨念を吸収した伏姫の身体には八つの珠が生じ、彼女の魂を受け継いだ八犬士がやがて現れることになる。
犬士の設定にもひねりがある。八犬士は、里見家を守る隠密と位置づけられ、その本拠地である金碗の郷にゝ大とともにいる犬塚信乃、犬川荘助が、ほかの犬士を探しに行く。仁義礼智忠信孝悌の珠と痣が犬士の徴であるのは、原作と変わらない。だが、犬山道節が女性であり、浜路とは兄妹ではなく姉妹である点が違う。その浜路が犬塚信乃と親密であるのは原作と同様だが、実は彼女は妖で彼を騙している。網乾左母二郎は玉梓の手下として暗躍するが、妖をも切り殺せる名刀村雨丸を贋物とすり替えるのは、彼ではなく浜路なのだ。
また、犬村大角も女性とされ、原作では犬飼現八とともに亡父に化けた妖猫を退治するわけだが、この芝居では大角は妖猫に憑かれた状態でまず登場する。彼女は悪から善へと転じる流れになっている。
八犬士のなかでも主人公格となるのが、犬坂毛野だ。女性が演じているが女装の男性と設定されており、死んだはずの父・粟飯原胤度と再会する。だが、実は粟飯原胤度は玉梓と組んだ妖の扇谷定正であり、毛野は妖の血を引いていた。最終的に定正と玉梓は撃退されるが、特別な血筋の毛野以外の犬士は次々に死んでいく。この展開や、犬士のなかに敵方の血を引く者がいる設定は、1984年映画『里見八犬伝』と近い。
伏姫が珠を第二の命として与えることで犬士たちは蘇り、結末を迎える。
伏姫と玉梓、道節と浜路だけでなく犬士同士が争う場面も多く、全体的に兄弟姉妹の対立の積み重ねで物語を作っている。盛りだくさんの内容だが、それぞれのキャラクターをわかりやすく打ち出し(犬田小文吾は大柄な男性が演じ、犬江親兵衛は小柄な女性で子ども感を出すなど)、2時間の尺にまとめているのは見事。怪奇趣味、血筋の宿命といった原作にあった要素をよくアレンジしていて、楽しめた。
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