一部でヒカシューが話題だから書くけど、『物語考 異様な者とのキス』で『フリークス』『エレファント・マン』『グレイテスト・ショーマン』などに触れた部分では、『フリークス』にインスパイアされ制作された『うわさの人類』も念頭にあった。なので本を執筆中だった昨年の彼らのライヴでタイトル曲を聴いた時には感激した。
とはいえ、かつて巻上公一が鼠を演じた映画『風の歌を聴け』でヒカシュー『うわさの人類』の収録曲“新しい部族”が流れたのを見た時は、村上春樹の原作小説の音楽趣味と乖離しすぎてて謎だったな。
中村とうようの「(ニュー)ミュージックマガジン」(と吉本隆明の「試行」)をとりあげた山崎隆弘『戦後日本の言論とサブカルチャーの形成過程』から、富永京子『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史 サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』へ。論じられる1970~80年代の2誌を、高校~大学の頃は本屋でめくり、たまに買っていた。
『音楽雑誌と政治の季節』と『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史』は、いずれもサブカル=雑誌と政治の距離がテーマ。「ニューミュージックマガジン」でははっぴいえんど絡みの日本語ロック論争、「ビックリハウス」にはYMOや糸井重里の連載があったわけで、「坂本龍一の転進」トークイベントのいい参考文献になる感じ。
1/24(金)新宿ROCK CAFE LOFT 配信有
【『坂本龍一語録 教授の音楽と思考の軌跡』刊行記念イベント】
『坂本龍一の転進 アブないラディカリストはスナオになったのか』
出演:円堂都司昭、TVOD(コメカ、パンス)
詳細 https://loft-prj.co.jp/schedule/rockcafe/301753
『坂本龍一語録』刊行記念イベントのお相手をTVOD(コメカ、パンス)にお願いしたのは『ポスト・サブカル焼け跡派』が理由。彼らのこの著書はディケイドごとに象徴的なアーティスト数名をとりあげ、時代とカルチャーを論じているが、YMOと関連のある人物がけっこう含まれていたのだ。
同書に登場するのは、矢沢永吉(“時間よ止まれ”編曲は坂本龍一)、沢田研二(『戦メリ』ヨノイ役を坂本以前に打診されてた)、ビートたけし(『戦メリ』!)、フリッパーズ・ギター(小山田圭吾はYMO晩年のサポート・メンバー)、電気グルーヴ(石野卓球は『テクノドン』を『テクノボン』で批判)、星野源(ドテラYMOと共演)、そして坂本龍一本人など。
『ポスト・サブカル焼け跡派』でTVODが論じたのはこんな顔ぶれだから、『坂本龍一語録』でアーティストや文学者などとの対話のなかの言葉を追った私としては、彼らと話してみたいと思った。当日が楽しみ。
このアルバムの糸井重里によるキャッチコピーが「スナオ・サカモト」だった。
最近の自分の仕事
-国内2位と7位、クォータリー・ベスト10位のレビュー → 『2025本格ミステリ・ベスト10』
-国内1位のコメント → 「週刊文春」12月12日号 ミステリーベスト10
先日行った安部公房展。彼が1973年に演劇へ乗り出した際、西武流通グループ(~セゾングループ)代表・堤清二=小説家・辻井喬の後援があり、安部公房スタジオ第1回公演が渋谷PARCO9階の西武劇場(現・PARCO劇場)だったこと、2人が対談していたことが紹介されていた。
(対談はこの本↓に収録されている)
1978年にデビューしテクノ・ポップ流行を導いたYMOも雑誌「ビックリハウス」(パルコ出版)に連載を持つなどセゾンと浅からぬ関係があった。
それに対し、ピンク・フロイド好きだった安部は、1976年にシンセサイザーを購入し、舞台音楽を手がけていた。
1970年代当時はあまり意識しなかったが、安部とYMOは、セゾン、シンセという点で意外に近い文化圏にいたのだった。
最近の自分の仕事
-登場人物の「正体」をめぐる問いの連鎖ーー原作小説から読み解く、映画『正体』の狙い https://realsound.jp/book/2024/11/post-1857236.html
「本の雑誌」12月号の浜本茂「学生運動と小説」では、柴田翔『されどわれらが日々――』、庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』など学生運動関連の小説がとりあげられており、その多くに私も触れていた。加えて私は奥浩平『青春の墓標』、高野悦子『二十歳の原点』など運動世代の自殺者の手記も読んでいた。
さらに私が入学した高校ではその10年前にバリケード封鎖が行われたのだが、残された当時の生徒の部室ノートや生徒会誌をめくりもした。そうした当時のありふれた高校生が書いた文章から、村上龍や坂本龍一などが語るバリケード封鎖体験をイメージしたところはある。
最近の自分の仕事
-「アフタートーク 著者×担当編集者」第18回『正体』染井為人(作家)×吉田由香(光文社)の聞き手・構成 → 「ジャーロ」No.97
「SPECTATOR 1976サブカルチャー大爆発」がスポットを当てていたのは『宇宙戦艦ヤマト』、『別冊宝島』、『地球ロマン』、そして『ロックマガジン』とパンク。同特集では特に注目されていないが1976年には村上龍『限りなく透明に近いブルー』というサブカル文学も大ヒットした。だが、同作に登場するロックはドアーズ、ローリング・ストーンズなどだったし、パンク勃興の1976年においては古いものであり、文学の遅さがあらわれていた。