ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

はっぴいえんどの時代、坂本龍一、櫻井敦司

 

 

 はっぴいえんどの活動期間と同時代の文学の動向を、はっぴいえんどファースト・アルバムの謝辞に名前があった人物を押さえつつふり返るというコラムを書いた。以前、1970年代後半論を書きたいと表明したけど、この短文は1960年代末~1970年代前半整理なのだった

 

「OTONANO」2023年11月号 特集 はっぴいえんどURCレコード コラム~はっぴいえんどの時代(1963~1973)|第1回:文学 https://otonanoweb.jp/s/magazine/diary/detail/9091?ima=5100&cd=feature

 

 後に細野晴臣の言葉を引用しエッセイ「リズム・メロディ・コンセプト」を書いた柄谷行人が、この時期、1969年に「<意識>と〈自然〉-漱石試論」で第12回群像新人文学賞評論部門を受賞して批評家デビューしているが、上記の原稿では触れる余裕がなかった。柄谷は、大瀧詠一「分母分子論」に言及したこともあった。

 

 

 一方、「ユリイカ」2023年12月臨時増刊号 総特集=坂本龍一 1952-2023 には「YMOの/と坂本龍一――「環境」と歴史、切断と継承の間で」という文章を書いた。ふり返ってみて、自分が興味を持って素直に聴けたのは『BEAUTY』までで、以後は複雑な感情を抱かざるをえないままだったと、あらためて確認した。

 

 

最近の自分の仕事

-京極夏彦、17年ぶり百鬼夜行シリーズ『鵼の碑』は破格の作品だ――じわじわと不安を持続させる832頁 https://realsound.jp/book/2023/09/post-1435956.html

-神永学『ラザロの迷宮』、夕木春央『十戒』の紹介 → 「小説宝石」10月号

-石持浅海『あなたには、殺せません』のレビュー → 「ミステリマガジン」11月号

-「アフタートーク 著者×担当編集者 第11回 『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』青柳碧人(作家)×秋元英之(双葉社)(聞き手・構成)

-伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』書評 → 「週刊現代」10月14日号

-第27回日本ミステリー文学大賞新人賞 予選委員コメント https://kobun.or.jp/mistery_new/prize27/

-佐藤究、三島由紀夫に挑んだ新作長編『幽玄F』を語る 「重視したのは、死の享楽や美を持たせないこと」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/10/post-1462868.html

 

 

 20年以上前に私が勤めていた業界誌には、社内でレイアウトを担当しつつ、アフター5には商業BLコミック誌の編集をしているという猛者がいた。いつも黒装束で出勤していたその人は、趣味で櫻井敦司を題材にした個人同人誌を作っていて、私も数冊もらった。彼女からは、BUCK-TICKのライヴヴィデオとか原形とどめないリミックス集とか借りた。私もBUCK-TICKにハマっていたのだった。今、どうしているのか知らないけれど、この文章は彼女のようなファンの存在を意識しつつ書いた。

-「狂う」「原罪」「孤独」……BUCK-TICK櫻井敦司が多用した言葉 三島由紀夫京極夏彦、小説家からの影響 https://realsound.jp/book/2023/10/post-1474897.html

「本の雑誌」10月号 書評家座談会

本の雑誌」10月号の「特集 この人の本の紹介が好き!」の書評家座談会「サバイバルより分業制だ!」(大森望、倉本さおり、杉江松恋)を読む。仕事の種類とその収入の割合についてなど、なかなか生々しくも切実な話をしている。特に次の部分↓

 

――でも読むのが好きで人に薦めるのが好きで、この仕事を始めたわけですよね。それをメインでやってるってすごく幸せなことだと思うのですが。

倉 好きで読んでるんだけど、私たちにも生活というものがあるじゃないですか。というか本の雑誌社さんがそれを言うのはなかなかに鬼畜みがないですか(笑)。

 

本の雑誌」の新刊めったくたガイド(←私も以前担当した)のように冊数を読んで書くのが、原稿料的に一番わりにあわないという話を大森氏がした後、このやりとりになるのだから、鬼畜という言葉が出るのもうなずける(笑 ← 一応、この字を入れておこう)。倉本氏に激しく同意する。私にだって生活はあるんだ。

 

 

 

重松清『カモナマイハウス』

最近の自分の仕事

-重松清が考える、空き家問題と定年後のオヤジの生き方「自分を見ていても、アップデートできていない部分がいっぱいある」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/09/post-1427466.html

 新刊『カモナマイハウス』に関する上記インタビューを担当した。私は今年、父の死後に要介護老人ホームで過ごしていた母が亡くなり、空き家状態になっていた実家を処分したので、介護ロスや空き家ビジネスを題材にした同作には、いろいろ感じるものがあった。

 

 重松清『カモナマイハウス』には、「持続可能なオヤジをつくる」というフレーズが登場する。そういえば、松田青子『持続可能な魂の利用』(2020年)には、この国から「おじさん」が消えることで、女性たちの「魂」が「持続可能」になる幻想の未来が描かれていた。二作をあわせ読むと、この国の「おじさん」的なるものが立体的に浮かび上がる気も。

 

 あと、ネタバレになるからなぜそう考えたか書けないのだけれど、『御伽の国のみくる』という小説を書いたモモコグミカンパニーが『カモナマイハウス』を読んだらどう感じるのだろう? と思った。両作には比較的近い属性を持つ人物が登場するし、彼らをアラ還世代、若い世代それぞれの書き手の視点からとらえたような部分がある。この対比も個人的に興味深かった。

 

栗本薫『真夜中の天使』

 私もそうだが、ジャニーズ事務所の性加害の件で、栗本薫『真夜中の天使』を思い出した人がけっこういるようだ。1970年代に執筆された同作のように、ひょっとすると芸能界はそういうところなのではないか、という半信半疑の想像は、それ以前から世間にあったと思う。

 この小説は、沢田研二主演ドラマ『悪魔のようなあいつ』を、栗本が繰り返し二次創作しているうちに元の話から離れていったものだという。私は、1982年に文庫化されてすぐの頃に読んだけれど、今でいうBL小説に触れるのは初めてだったし、インパクトはあった。当時、すでに竹宮恵子萩尾望都などの少年愛ものの少女マンガは読んでいたものの、小説ならではのエグイ描写もあったから。

 ただ今回、久しぶりに「マヨテン」を思い出したけれど、主人公・今西良の愛称が「ジョニー」だったことは、すっかり忘れていた。よりによって「ジョニー」なのか……。

 

 

 

おまけの雑記

 

SFマガジン」10月号の「特集 SFをつくる新しい力」。10~20代SF読者アンケートの「好きなSF作家」上位30人には、星新一筒井康隆は入っていても小松左京は入っていない。わかる気がする。

 

ミュージカル『ムーラン・ルージュ』。ストーンズの“悪魔を憐れむ歌”、“無情の世界”、“ギミー・シェルター”を混ぜあわせた場面など典型的だが、洋楽有名曲の小刻みなパッチワークが、音楽面での面白さの1つになっている。でも、日本語版の歌詞は原曲の抑揚、聴き心地の快さを減じていると思う。もう少し言葉を選んで詞を練れなかったものか。

 

 

ミュージカル『ファントム』で容姿が醜いゆえに虐げられた主人公が、詩人ウィリアム・ブレイクを「心の代弁者」と呼ぶのは、大江健三郎が『新しい人よ眼ざめよ』など障害を持つ息子を主題にした連作でブレイクを頻繁に引くのと通ずる。両者ともブレイク『無垢の歌』を引用している。

 

 

最近の自分の仕事

-長浦京『アンリアル』、速水健朗『1979年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』の書評 → 「小説宝石」8月号

SUMMER SONIC 2023

今年観たもの

・8月19日

MELT4/amazarashi/New Jeans/[Alexandros]/TWO DOOR CINEMA CLUBSEKAI NO OWARIALI SHAHEED MUHAMMAD(A Tribe Called Quest)/DJ豊豊/星野源/YOASOBI

・8月20日

METALVERSE/NOVA TWINS/ももいろクローバーZ/sumikaOriginal Love/Awitch/女王蜂/CHAI新しい学校のリーダーズ/BABYMETAL

 

 

 

最近の自分の仕事

-大滝瓶太『その謎を解いてはいけない』の書評 → 「ミステリマガジン」9月号

-「アフタートーク 著者×担当編集者」第10回<『#真相をお話しします』結城真一郎(作家)×村上龍人(新潮社)>(聞き手・構成)

-速水健朗「90年代は馬鹿みたいに浮かれていた時代」『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』インタビュー(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/08/post-1393863.html

1970年代後半カルチャー論(仮)

 1970年代後半カルチャー論をやりたいと思い始めている。W村上など20代作家が多く登場し、新井素子みたいに10代までがデビュー。性意識、キャラクター、文体など小説に変化があった。同時期にはマンガの24年組、JUNEなどBL源流の動きがあり、YMOのテクノブームでテクノロジーの変化も見られた。

 後のカルチャーのプロトタイプ的なものを多く見出せる気がする。この時代をになった人たちが亡くなり始めているから、この時代を考えたくなったということもある。

(これは前回投稿「「音羽キャンディーズ」の時代」にも関連する話)

 

 

最近の自分の仕事

-彩瀬まる『花に埋もれる』、清志まれ『おもいでがまっている』の書評 → 「小説宝石」5・6月合併号

-特集 藤子 F・不二雄のSF短編の作品総解説のうち3作担当(「ぼくは神様」「マイロボット」「世界名作童話」) → 「SFマガジン」6月号

-「ジャーロ」編集長インタビュー「評価がある評論家さんが、売れる本を書けないとは思えない」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/04/post-1313377.html

-YMOが突き詰めた擬似日本人像、「なりきれなさ」に託した思い → 「朝日新聞」耕論 YMOとその時代(5月20付。談話)https://www.asahi.com/articles/DA3S15640553.html https://www.asahi.com/articles/ASR5J55WZR4TUPQJ00W.html

-川瀬七緒『四日間家族』の書評 → 「ハヤカワミステリマガジン」7月号

-<アフタートーク 著者×担当編集者>第9回「『いけない』『いけないII』道尾秀介(作家)×清水陽介(文藝春秋)」(聞き手・構成) → 「ジャーロ」No.88

-もしも寺山修司が今、アイドルをプロデュースしたら? 中森明夫『TRY48』が紡ぐ、アングラからサブカルへの連続性 https://realsound.jp/book/2023/06/post-1345584.html

-砂村かいり×モモコグミカンパニーが語る、アイドル活動を終えた後の人生「カメラをむけられないけれど、生活は続く」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/06/post-1342931.html

-金属恵比須主催 プログレッシヴ・フォーラム「SFと小松左京、そしてロック音楽」イベントレポ(取材・構成) https://realsound.jp/book/2023/06/post-1343238.html

-村上春樹『街とその不確かな壁』に見る、老いの創造力 円堂都司昭×藤井勉×三宅香帆 鼎談 https://realsound.jp/book/2023/06/post-1348397.html

-平野啓一郎が明かす、三島由紀夫への共感「虚無のなかから文学的な美を創造することに自らの存在意義をかけた」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/07/post-1363995.html

-「ハヤカワ新書」一ノ瀬翔太編集長インタビュー「読む前と世界が違って見えるレンズのような本が作れたら」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/07/post-1360417.html

-日本一の長寿雑誌「中央公論」編集長インタビュー「クオリティの一線は譲らず、この大切なプラットフォームを守っていきたい」(取材・構成)https://realsound.jp/book/2023/07/post-1370781.html

-長浦京『アンリアル』、速水健朗『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』の書評 → 「小説宝石」8月号

「音羽キャンディーズ」の時代

 1970年代後半。栗本薫『ぼくらの時代』/中島梓『文学の輪郭』、見延典子『もう頬杖はつかない』が注目された頃、早稲田大学文学部文芸専修(当時)の創設に携わり、彼女たちを後押しした平岡篤頼も話題になった。

 また、栗本、見延、そして『海を感じる時』の中沢けいの3人が、いずれも講談社発のベストセラーだったことから「音羽キャンディーズ」と揶揄されていた。中沢・見延作品は、高校生・大学生という若い女性の性描写が評判になり、栗本作品にそれほど性描写はなかったものの、やはり女子高校生の売春が一つのモチーフとなっていた。そうしたことも含めたうえで、アイドル・グループをもじった呼称が用いられていたと記憶する。「カワイ子ちゃん」あつかいで一人前と認めない雰囲気。

 最近の文芸業界のジェンダーやハラスメントをめぐるあれこれは、あの時代から連続していることのようにみえる。