遠藤周作『沈黙』

 

   金承哲『痕跡と追跡の文学』読了。遠藤のキリスト教文学が、探偵小説の手法をいかにとり入れていたかを論じている。まどろっこしい記述に難はなるが、着眼点が面白く、興味深く読んだ。 

 終章は『沈黙』の分析である。

沈黙 (新潮文庫)

沈黙 (新潮文庫)

  • 作者:遠藤 周作
  • 発売日: 1981/10/19
  • メディア: 文庫
 

 私も『ディストピア・フィクション論』でも触れたけど、安倍晋三は『沈黙』を愛読書に挙げていて彼名義の新書『美しい国へ』にはこうある。

 

美しい国へ (文春新書)

美しい国へ (文春新書)

 

 

  なにかに帰属するということは、そのように選択を迫られ、決断をくだすことのくりかえしである。

 

 身の処し方といいかえてもよいが、そういう人の人生には張りがある。

 他の場に出された安倍名義の愛読書に関する文章でもこんな感じだ。

 漢字も言葉もろくにわかっていない安倍だから文学など読めるはずがない。

 踏絵で棄教を迫られる『沈黙』は、政治的な転向との類比でむしろ左翼的な観点から読まれることのほうが多かった。そもそも安倍向きではない。選択や決断が困難な弱い人間に弱いキリストが寄り添う。幻視されたその光景に希望を託す。遠藤が描く信仰のありかたは、そのようなものだ。

「身の処し方」とか「そういう人の人生には張りがある」なんて勇まし気な内容では、まるでない。

 それはともかく、『遠藤周作と探偵小説 痕跡と追跡の文学』は、いろいろ示唆されるところがあったので、同書から考えたことはいずれあらためて書いてみたい。

 

 

最近の自分の仕事

-映画『ボヘミアン・ラプソディ』では描かれなかったクイーンの実像――出版相次ぐ関連書籍から読み解くhttps://realsound.jp/book/2020/01/post-494695.html

-前川裕著『クリーピー ラバーズ』の文庫解説

-学校と病院はサスペンスにうってつけ? 『シグナル100』『仮面病棟』など“閉鎖空間”が人気のワケ https://realsound.jp/movie/2020/02/post-502054.html

-松井玲奈高山一実、大木亜希子、姫乃たま……アイドルの文章に共通する”熱”とは? https://realsound.jp/book/2020/02/post-504091.html

-歌田年『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』、宇野惟正・田中宗一郎『2010s』の紹介 → 「小説宝石」3月号

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、ようやく行って来た。なるほどこれはディズニー映画だなぁ、『アナ雪2』の時と似た気分になるなぁと思いつつ見ていた。ポリコレに配慮した多様性のキャスティング、役回りの分配でありながら、結局、血筋や家柄をロマンティックに扱っているし。

 前作でばらけたところを無理矢理収束に持ちこみ、エンディングであのシリーズ初公開作(エピソード4/新たな希望)と対応したシーンを持ってきた。まあ、ブックエンド形式的な終わりかたをすれば、途中がちらかり放題でも、さもまとまったかのような錯覚を誘えるものねえ、と意地悪に考えてもいた。でも、あの夕陽を見せられると、1977年の中学生時代にワクワクして見た身とすれば、当然記憶が蘇って感慨深く思うわけで、ずるいなー、ずるいなー、と。

 なんだかんだで楽しかったです。

 

 

松本清張と百田尚樹

 人気小説家でありつつ、自身の史観をノンフィクションとして語る。歴史学者からの批判はあっても、大衆や出版界は人気小説家に一目置き続けている。

そのようなありかたにおいて、今の百田尚樹って、松本清張の受け入れられ方とかぶってないか? と、この本を読みつつ思った。 

「松本清張」で読む昭和史 (NHK出版新書)

「松本清張」で読む昭和史 (NHK出版新書)

  • 作者:原 武史
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 単行本
 

 

 ミステリ評論の分野では、「探偵小説を私は『お化け屋敷』の掛け小屋からリアリズムの外に出したかった」という清張発言にそって、彼を社会派のリアリズムと位置づけることが定式化してきた。

 ただ、小説はそうだとしても、清張の昭和史ノンフィクションに関しては、歴史学やノンフィクションの専門家から、GHQ謀略説に傾きすぎだと批判されてきたのだ。つまり、リアルではないと。その意味で清張は、昭和史を陰謀論のおどろおどろしさで彩られた「お化け屋敷」に入れたともいえるのではないか。

 ミステリの偉人として清張を扱った評論や評伝は最近よく刊行されているが、それらでも彼のノンフィクションにみられる偏向は指摘されている。原武史『「松本清張」で読む昭和史』の場合も、資料や証言者にまめにあたった綿密な調査、タブーを恐れず、タコツボ化する学問にはないスケールの大きな視野などを高く評価すると同時に、やはり不正確な内容を含むことに言及している。

 百田尚樹に関しても、小説がベストセラーになる一方、右翼的な陰謀史観による『日本国紀』が専門家からは批判されつつ、未だ多くの支持者を抱えているわけだ。専門家が記す堅苦しい歴史より、物語的な楽しめる歴史のほうがいい。そんな受容のされかたが、清張と重なる。『乱歩と清張』(郷原宏)、『乱歩と正史』(内田隆三)、『江戸川乱歩横溝正史』(中川右介)のように二作家カップリングの評伝が近年、相次いでいるが、百田と清張を対比して評するのもありではないか。ふと、そう考えたのだった。

 

 

最近の自分の仕事

-日本推理作家協会編のアンソロジー二分冊『沈黙の狂詩曲 最新ベスト・ミステリー』『喧騒の夜想曲 最新ベスト・ミステリ』の編纂委員、後者の序文

-「夜明けの紅い音楽箱」(とりあげたのは阿部和重『Orga(n)ism オーガニズム』)、探偵小説研究会のミステリを編みたいっ!(ベスト本格ミステリ21世紀) → 「ジャーロ」No.70

-テッド・チャン『息吹』、歌野晶午『間宵の母』、坂口恭平『まとまらない人 坂口恭平が語る坂口恭平』の紹介 → 「モノマスター」2020年2月号

-村田沙耶香『変半身』、穂波了『月の落とし子』の紹介 → 「小説宝石」2020年1月号 https://www.bookbang.jp/review/article/600313

-「2019年」を舞台にしたSF名作『ブレードランナー』『AKIRA』『図書館戦争』 ディストピアは現実に? https://realsound.jp/movie/2019/12/post-467499.html

-純文学雑誌は転換期を迎えている――『文藝』リニューアル成功が浮き彫りにした重い課題 https://realsound.jp/book/2020/01/post-477059.html

-横溝正史と西村京太郎はなぜ国民に愛される? 金田一耕助十津川警部シリーズが映した日本の社会 https://realsound.jp/movie/2020/01/post-477500.html

アイドル@ディストピア

ディストピア・フィクション論』では2010年代日本の同調圧力と歩調をあわせた曲としてAKB48恋するフォーチュンクッキー”に触れたが、当初はあとがきで欅坂46“不協和音”に触れようと考えていた。同曲にみられるように抵抗、あるいは戦争、世界の終り、ゾンビなど、ディストピア的世界観がアイドル・ソングで増えたと感じていたからだ。

 戦闘美少女的なイメージ付けとしてそうした設定が好まれるのだろうし、革命をモチーフに選ぶ例も散見される。だが、アイドルが多すぎて十分見渡せないし、書くのはあきらめたのだった。

 というわけで、その種の曲を適当に集めたこんなプレイリストを作ってみた。

 

アイドル@ディストピア

Spotify

『IT/イット THE END』『ドクター・スリープ』

 

 

 

  昨日の『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』に続き、今日もスティーヴン・キング原作の『ドクター・スリープ』を観た。キューブリック版『シャイニング』の続編でありつつ、キング原作版『シャイニング』の大きな要素もとりこみ、作品として両者の和解融合を図る高等戦術。よく練られていた。

『IT/イット THE END』と『ドクター・スリープ』は、過去の出来事とむきあう点が共通する。ただ、前者はルーザーズ各人の“自身”をめぐる物語であるのに対し、後者は子どもの時に助けられた主人公が、大人になって助ける側にまわる“役割”継承の物語。二作を日替わりで観て、その違いを面白く思った。

 

アナと雪の女王2』もそうだったが、『ドクター・スリープ』を観ていて『スター・ウォーズ』シリーズのようだと思うところがいくつかあった。相手の首をつかんでの吊し上げ、分身を用いての戦いといった個別の要素もそうだが、視覚的で具体的なアクション、スペクタクルと、ある種のスピリチュアルな精神主義ブレンドという配分のしかたに近しさを感じたのだ。

 しかし、『アナ雪2』はともかく、考えてみればスティーヴン・キングの作家活動と『スター・ウォーズ』シリーズは、いずれも1970年代にスタートしていた。キングのデビュー作『キャリー』の刊行が1974年、邦訳が1975年、ブライアン・デ・パルマ監督による映画化が1976年(日本公開1977年)。一方、最初に制作された『スター・ウォーズ』(エピソード4/新たなる希望)公開が1977年(日本公開1978年)。『キャリー』は『ドクター・スリープ』でも扱われる超能力を主題にした作品であり、『スター・ウォーズ』はフォースと呼ばれる超能力が、物語の中核となっていた。

 私は、キングの諸作と『スター・ウォーズ』シリーズにいずれも初期から触れてきた。両者は、超常現象に関する世間的なイメージ形成では同時代に長いこと並走してきたのだし、具象的表現とスピリチュアルな意味づけの配分が相似しているのも不思議ではない。『ドクター・スリープ』を観て、あらためてそう考えたのだった。

 

キャリー (1975年)

キャリー (1975年)

 

 

 

スター・ウォーズ

スター・ウォーズ

 

 

最近の自分の仕事

-新鋭・気鋭特集で井上真偽氏インタビューと作家紹介1つ、ランキングでは国内作品レビュー3つを担当 → 探偵小説研究会編著『2020本格ミステリ・ベスト10』

 

2020本格ミステリ・ベスト10

2020本格ミステリ・ベスト10

 

 

アイドル・シンギュラリティ

前編

sfgeneration.hatenablog.com

 

後編 

sfgeneration.hatenablog.com

 

前編の一色萌(XOXO EXTREME=キスエク)発言。

 アイドル性を前面に押し出して歌ったらアイドルソングになるような声の子がプログレを歌っているグループなんですよ、キスエクは。

 だから逆にプログレに寄せ過ぎると違う、みたいなところもあるんじゃないですかね。 

  見事な解説。プログレ+アイドルの違和感をかけ算にするってことだろう。

 イギリス的なプログレ・バンドだったキング・クリムゾンに陽気なアメリカンのエイドリアン・ブリューが加入した時、違和感で批判も多かった。でも、やがて受け入れられ彼も評価されるようになった。そのブリューがキスエクに「いいね」したのは感慨深い。

 ――と、めんどくさいこと考えるプログレおじさん。

ロジャー・ウォーターズ『US + THEM』、ピンク・フロイド『光』

 昨日、『ロジャー・ウォーターズ US + THEM』試写会行ってきた。紛争、難民関連のイメージが多く挿入され、“Pigs”を歌い始めると即座にトランプの顔が映される。工夫したヴィジュアルで抵抗のテーマを単純明快に打ち出している。また、過去の彼のソロ・ライヴと比べても声がよく出ている。充実作。

www.110107.com

 ピンク・フロイド『光 PERFECT LIVE!』リマスター版の試写もあった。唐突にブタが飛び、なぜかベッドが激突して爆発する。ブタに意味を持たせるウォーターズとは違うけど、コンセプトにこだわらないからこそ成立する、笑って観ていられるエンタテインメント。こっちはこっちで楽しい。

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