ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

八犬伝講談

八犬伝薫風講談会

 宝井馬琴の講談本『里見八犬伝』の古書を探していたものの見つからず、「八犬伝」、「講談」で検索するうちに現在やられている講談がヒットした。それで昨年6月、浦安から館山へ行き、南房総三龍亭のこの八犬伝講談会を見たのだった。

 その後、松林伯知さん、神田山兎さんの八犬伝を聞き(神田紅佳さんの八犬伝も行こうとしたが、同時出演が神田伯山氏だったりしてチケットとれず)、発作的に神田山緑さんの講談教室で八犬伝を習うようになる。7月半ばからである。あっという間だ。お調子者である。

 半年たった今日はその発表会で「伏姫と八房」のくだりを読んだ。

講談教室発表会

 これで区切りをつけようと思っていたのだけど、教室では次の期にやはり八犬伝の「芳流閣の闘い」をとりあげるという。同作一の名場面だし、ここでやめるわけにはいかぬ。

 

 と振り返ると、南房総三龍亭が始まりだったわけだ。だが、八犬伝の地元であの長大な物語の講談化にとりくんだ三龍亭千公さんが、1月に亡くなられたという。

 実は昨年11月、山梨県立美術館で八犬伝展があった際、南房総三龍亭による八犬伝講談を予約していたのだが、新宿からの高速バスが遅れに遅れて間にあわなかったのだ。残念無念。

www.bungakukan.pref.yamanashi.jp

 

 ご冥福をお祈りします。

 

 

最近の自分の仕事

-『スピン』『GOAT』『アンデル』……安価な文芸誌、創刊相次ぎ大ヒットも 文芸評論家に聞く、版元の狙いとは?(コメント) https://realsound.jp/book/2026/01/post-2272880.html

-村山由佳山田詠美朝井リョウ……2025年に小説家たちが挑んだテーマは? 芥川賞直木賞「受賞作なし」後のトレンドを読む

https://realsound.jp/book/2026/01/post-2274137.html

-太宰治東野圭吾、柚木麻子……日本文学が英米で人気がある理由とは?(鴻巣友季子『なぜ日本文学は英米で人気なのか』書評) https://realsound.jp/book/2026/01/post-2274710.html

-もしも日本が太平洋戦争に勝利していたらーー「ズッコケ三人組」の著者が残した戦争文学(那須正幹『屋根裏の遠い旅』書評) https://realsound.jp/book/2026/01/post-2275956.html

當真あみ主演の注目作 柚木麻子『終点のあの子』が描き出す、若者同士のギクシャクした関係 https://realsound.jp/book/2026/01/post-2284113.html#goog_rewarded

-東野圭吾クスノキの番人』のテーマとは? 家族をめぐる物語の背景にある問題 https://realsound.jp/book/2026/01/post-2291254.html

-〈アフタートーク 著者×担当編集者〉第23回 「全編〝消失ミステリ〟という離れ業! 超絶技巧の短編集 『神の光』北山猛邦(作家)× 金城 颯(東京創元社)」(聞き手・構成) → 「ジャーロ」No.104

『ドラマチック・リーディング 新宿八犬伝 第一巻 犬の誕生』

 22日昼、space早稲田で『ドラマチック・リーディング 新宿八犬伝 第一巻 犬の誕生』を観てきた。

 作・川村毅

 演出・小林七緒(流山児★事務所)

 音楽・諏訪創

https://stage.corich.jp/stage/394529

「ドラマチック・リーディング」と銘打たれていたから、朗読劇を想像していたが、ちょっと違った。確かに役者が、持った台本を読みながら演技したりする。二つのグループが敵味方で左右に分かれ、その間に置かれた衝立に書かれた台本をそれぞれ読みあう場面もある。

 だが、とても読めるとは思えない小さな台本を手にしたり、台本を小道具として使うなど、読まずに演技する時間もかなりある。また、台本を持たないまま動く役者もいる。

 一方、この芝居には、「影の滝沢馬琴」が筆で物語を書いている姿が、たびたび挿入される。つまり、作者と、その人が書く物語のなかにいる登場人物の関係を、書いている「影の滝沢馬琴」と読んでいる登場人物という形で表現したのだろう。「ドラマチック・リーディング」であると同時に“ドラマチック・ライティング”でもある演出なのだなと思った。

「影の滝沢馬琴」が登場するくらいだから、川村毅脚本の『新宿八犬伝』は曲亭馬琴南総里見八犬伝』に着想を得ているわけだが、この芝居では「肉体の忍法」がキーワードになっている。また、勧善懲悪をテーマとした馬琴原作では、八犬士の持つ珠に、仁義礼智忠信孝悌という八つの徳の文字がそれぞれ浮かぶ。それに対し『新宿八犬伝』の珠の文字は、騒乱情痴遊戯性愛という、新宿歌舞伎町を舞台にした話らしい猥雑な意味に置き換えられている。これは、八犬士の子孫が、忠孝悌仁義礼智信の珠を、淫戯乱盗狂惑悦弄の字の偽珠へとすり替えられてしまい、本物を取り戻そうと奮闘する山田風太郎忍法八犬伝』を連想させるではないか。八つの徳を猥雑な悪徳へ反転させる発想や忍法のモチーフが、二作で共通している。さらに、『新宿八犬伝』では、風俗嬢四人とホスト四人が対立しつつ、彼らが八犬士となる。それは『忍法八犬伝』の、くノ一八人衆対八犬士という男女対立図式を受け継いだ設定のように思える。

八犬伝』のアダプテーションとしていろいろひねりがあって、面白かった。

 

 

最近の自分の仕事

-西村賢太の元恋人が語る、芥川賞作家への愛憎「辛さだけ残して逝かれちゃった」 https://realsound.jp/book/2025/11/post-2216980.html

-堺雅人 × 井川遥の切なすぎる“50代の恋愛” 『平場の月』原作小説から読み解く「友だちから」の意味 https://realsound.jp/book/2025/11/post-2217437.html#goog_rewarded

-「ラーメン」は獣に、「瞑想」は神に近づくためのもの――宇野常寛『ラーメンと瞑想』が示す、世界の違う見方 https://realsound.jp/book/2025/11/post-2223233.html

-渋谷陽一さんと私の回覧誌 → 「イコール」10号(橘川幸夫責任編集6号)

 

中沢けい『海を感じる時』について再び

聞く連続読書会「昭和50年代文芸を読む」】2025/11/21(金)双子のライオン堂 19:30~ 第4回・中沢けい『海を感じる時』(スピーカー:円堂都司昭仲俣暁生) 映画版しか知らない人も歓迎です。

http://peatix.com/event/4643676

『海を感じる時』の作者は中沢けい、主人公の名は中沢恵美子(作者の本名)。それは同作の二年前に同じく群像新人賞を受賞した『限りなく透明に近いブルー』の作者が村上龍(本名は龍之助)、主人公がリュウという、作者と主人公の近似性とズレを一つの仕掛けにしていたことの応用だろう。

 

 読書会で私が話そうと思うのは、1970年代後半の女性による性語りブームと投稿文化。前者に関しては、映画化もされた小説『もう頬杖はつかない』、アイドル山口百恵阿木燿子作詞曲、雑誌「宝島」に連載された『ANO ANO』などが同時代的現象としてあった。そこらへんに興味ある方はぜひ。

 また、若者向けのサブカル雑誌や深夜ラジオを舞台に投稿文化が盛んになり、文学新人賞への応募も若年が目立つ時代だった。『海を感じる時』と同年の1978年には読者投稿ばかりの雑誌「ポンプ」が創刊された。同誌の常連投稿者だった岡崎京子は、1980年代にマンガ家となりカジュアルに性を描くようになる。

 一方、1970年代後半の男性による性語りの代表といえば吉行淳之介。彼は『海を感じる時』に描かれた「子宮感覚」を評価し、群像新人賞に後押しした。この時期に吉行が自作『夕暮まで』で挿入しない素股を題材にして話題を呼んだことは象徴的だった。

 中沢けい『海を感じる時』読書会の次の回にとりあげるのは、仲俣さんが得意な橋本治の『桃尻娘』。同作は同時代作品に関して口語的文体の点で新井素子などと並べられることが多かったけど、若い女性(榊原玲奈)の描き方では、『海を感じる時』や見延典子『もう頬杖はつかない』の文学少女ノリとは対照的なポップさが注目された小説だったと思う(ちなみに、シリーズ第5作『無花果少年と桃尻娘』の章題に「もう桃尻はつかない」なんてパロディがあった)。『海を感じる時』読書会では、『桃尻娘』との距離といったことを仲俣さんに聞きたいと思います。

「文藝」最新号の対談で山田詠美(1985年デビュー)と松浦理英子中沢けいと同じ1978年デビュー)は、自分たちの登場した時代に女性作家が男性作家からいかに侮られていたかを語っている。この対談と同号のインタビューで山田は、当時ベストセラーになった中沢『海を感じる時』や見延典子『もう頬づえはつかない』などは、避妊しないつれない男とつきあい妊娠の不安や中絶を経てそれでも歩いていくという、男の想像の範囲にある「女の目覚めと自立」が男性作家に評価され(許され)たのではないかと述べている。『海の感じる時』読書会ではそんな観点も話しあいたい。

 群像新人賞では前年(1977年)に優秀作だった山川健一も千葉出身だった。中沢けいは横浜生まれだが『海を感じる時』執筆時は千葉在住。1970年代後半に子宮感覚を描いた『海を感じる時』に対し、やはり千葉出身の村田沙耶香『消滅世界』(2015年)は人工子宮をモチーフにして千葉の実験都市が登場。SF的設定で『海を感じる時』にあった子宮のテーマを受け継いでいるともいえる。

 

中沢けい『海を感じる時』

【聞く連続読書会「昭和50年代文芸を読む」】2025/11/21(金)19:30~ 第4回・中沢けい『海を感じる時』(スピーカー:円堂都司昭仲俣暁生

詳しくはこちら↓

https://peatix.com/event/4643676

 

 11/21の読書会に向けてを何十年ぶりかで再読。1970年代後半に高校生女子の性体験を描いて話題になったが、それと同等に母娘関係がテーマになっている。あと、石原慎太郎太陽の季節』の女が死なず意外に強いヴァージョンのようにも感じた。

 

 『海を感じる時』(1978年)は女性主人公の16歳から18歳を描いているが、同作発表の翌年には中上健次原作の映画『十八歳、海へ』や、池田満寿夫が自作小説の映画化を監督した『エーゲ海に捧ぐ』が公開された。後者のイメージソングで大ヒットした「魅せられて」は「女は海」と歌っていた。海、流行ってたのか?

 

 ベストセラーになった中沢けい『海を感じる時』(1978年)は、翌年レコード化されている。五十嵐麻利江が歌う『海を感じる時』だ。全曲が小椋佳作詞作曲で鈴木茂村上ポンタ秀一高橋幸宏難波弘之などが演奏するすごい布陣。フュージョンに力を入れたBETTER DAYSから出ていた。

 原作『海を感じる時』では、主人公が「好きだ」と先輩男性に伝えるコーヒーショップ内で、同時代のヒット曲である岩崎宏美“ロマンス”が流れる。五十嵐麻利江『海を感じる時』の収録曲では“あなたの下宿”が、当時のアイドル歌謡曲風のアレンジになっている。

 

 

最近の自分の仕事

-講談師・神田山緑に聞く、小泉八雲の魅力「愛情とか優しさとか、日本人の大切なものが全部含まれている」(取材・構成) https://realsound.jp/book/2025/10/post-2180952.html

-長澤まさみ演じる“北斎の娘”は火事が好き? 映画『おーい、応為』の原作『百日紅』が描く恐怖とエロス https://realsound.jp/book/2025/10/post-2188698.html

-裁判員の前に突きつけられる「不確かな真実」――ミステリより恐ろしい『目撃証言』と「記憶の錯誤」のメカニズム https://realsound.jp/book/2025/10/post-2194583.html

-中村文則が明かす、縄文時代に実在した“蛇信仰”に惹かれた理由――新作『彼の左手は蛇』に込めた思いとは?(取材・構成)https://realsound.jp/book/2025/10/post-2187683.html

-山田裕貴主演で注目『爆弾』が炙り出す、人々の破壊衝動 “無敵の人”スズキタゴサクから目が離せなくなる理由 https://realsound.jp/book/2025/11/post-2203758.html

-二・五次元の焼肉――金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』 https://note.com/endingendless/n/nedd698246770

 

 

最近noteにアップした過去原稿

-ジミ・ヘンドリックスの像の変遷

-乱歩歌舞伎 感想

-《聖なる館》、『狂熱のライヴ』、《永遠の詩》――レッド・ツェッペリン

-プログレ、テクノのジェフ・ベック

-レッド・ツェッペリン――今は亡き獣のためのグルーヴ

-クイーンのデビュー・アルバムについて

-ザ・フーと60年代フェス文化――《トミー》と「ライフハウス」

-レッド・ツェッペリンのセクシーさ――『狂熱のライヴ』から《伝説のライヴ》へ

-「社会的」と「個人的」の多重構造――大江健三郎『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』

-《プレゼンス》とロバート・プラント

-90年代デヴィッド・ボウイの”再“冒険――《アウトサイド》~《'hours...'》

-グラム・ロックからポスト・ロックへ――ブライアン・イーノの艶やかな冒険

-ビートルズセックス・ピストルズ

-セックス・ピストルズを自由に聴くために――クイーン、ザ・スミスとか

-セックス・ピストルズ周辺から芽吹いたポスト・パンク

-デヴィッド・ボウイのベルリン時代――12のサウンド&ヴィジョン

https://note.com/endingendless

「文藝」冬号特集1「山田詠美デビュー40周年」

「文藝」冬号の特集1は「山田詠美デビュー40周年」。松浦理英子との対談で山田が「この前読み返したんだけど、大ベストセラーになった中沢けいさんの『海を感じる時』と見延典子さんの『もう頬づえはつかない』が一九七八年~」と振り返るあたりが目を引く(松浦は一九七八年デビュー)。

 仲俣暁生さんとやっている連続読書会「昭和50年代文芸を読む」の次回11月21日には中沢けい『海を感じる時』をとりあげるので、松浦×山田対談で示される、当時の女性作家に対する男性作家の態度への批判は興味深い。

「昭和50年代文芸を読む」全6回は実は昭和50年代前半の本しか対象にしておらず、続編で後半をやろうかとも話している。高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』、島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』あたりが候補で、当然、山田詠美『ベッドタイムアイズ』はとりあげたい

 

 

最近の自分の仕事

-〈アフタートーク 著者×担当編集者〉第21回「第三十八回山本周五郎賞受賞作!『女の国会』新川帆立(作家)×壺井円(幻冬舎)」

-『沈黙の艦隊』発表から37年ーーなぜ世界情勢が変わった現代でも面白い? ゲーム的エンタメ性と反戦テーマの二面性 https://realsound.jp/book/2025/09/post-2168857.html#goog_rewarded

 

 

最近noteにアップした過去原稿

-後期ビートルズ作品のトータル性――磁場としての《ホワイト・アルバム》

-ベスト選曲で聴く ローリング・ストーンズ

-90年代のストリート・ファイティング・マン――ローリング・ストーンズ

-ヤードバーズの遺伝子なくして、70年代のロックは存在しない

https://note.com/endingendless

「昭和50年代文芸を読む」第3回・栗本薫『ぼくらの時代』

【聞く連続読書会「昭和50年代文芸を読む」】第3回・栗本薫『ぼくらの時代』を双子のライオン堂で明日9/26(金)行います。

『ぼくらの時代』に関しては、中島梓『文学の輪郭』で論じられたつかこうへい『熱海殺人事件』との親近性、竹本健治匣の中の失楽』との同時代性、ロック愛好家としての彼女と渋谷陽一との対比、JUNE作家の側面など、時間の許す限り話したいと思います。

 この際だから同書未読の方も含め、栗本薫/中島梓に関心のある方はぜひ来てください。この回だけの参加も歓迎!  詳細はこちら以下。

https://peatix.com/event/4527051

 

最近の自分の仕事

-『俺ではない炎上』がひっくり返す「自分は悪くない」という思い込み――ネット炎上よりも恐ろしいもの https://realsound.jp/book/2025/09/post-2166532.html

 

 

最近noteにアップした過去原稿

-レッド・ホット・チリ・ペッパーズとカリフォルニア幻想

-2007年のニルヴァーナ

-《サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド》的なユートピア

https://note.com/endingendless