『バンド臨終図巻』において僕は、レッド・ツェッペリンやクイーンなど、60〜70年代にデビューした洋楽バンドを多く担当した。その際に考えていたことがある。
「大人のロック!」という雑誌があって、「1960〜80年代洋楽ロックファンに向けた、季刊の音楽誌」とうたわれている。同誌は基本的に、昔のロックはよかった、今もかつてのスターたちは昔のスピリットを失っていない――と過去を懐かしみ、美化するアングルで作られてきたといっていいだろう。
そこでとりあげられるバンドは、60年代、70年代、80年代にそれぞれ黄金期を迎えたが、現在から冷静にふり返れば、むしろその後の試行錯誤・迷走・踏ん張りに入ってからの期間の方が長くなったベテランばかり。しかし、誌面では、彼らの長い人生では短い時間にすぎなかった黄金期を大きく扱い、試行錯誤期間についてはさらりと流す構成になっていたことが多い印象だ。
これに対し、僕は、『バンド臨終図巻』で逆の書きかたをするよう心がけた。盛りを過ぎてからのアーティストたちが、いかに右往左往七転八倒しながら音楽業界で生き延びたか。そちらのほうを重視し、黄金期を記述する行数はできるだけ減らしたのだ。「大人」であるならば、むしろそのような試行錯誤にこそ人生を学ぶべきだろう、よかった時ばかり懐かしんでるんじゃねえよ――というわけである。
ところが、「大人のロック!」最新号には「ハードロックバンド“ライブ余命”あと何年?」という特集が組まれている(メイン記事は増田勇一執筆)。
そう、世の中のさまざまな事象と同じようにロックアーティストが活動できる時間は「永遠」ではない。解散、闘病、他界など理由は一つではないが、人生にもキャリアにも、終着点は必ず訪れる。
リード文でそう記したうえで、バンド“余命”の事例紹介がされている。これは「大人のロック!」が「大人」の老いというシビアな現実に向きあったテーマ設定であり、僕としてはその方向性は評価したいと思う。
特集では、エアロスミスやキッス、故ロニー・ジェイムズ・ディオ、オジー・オズボーンなどに焦点があてられている。また、『バンド臨終図巻』では紙幅やタイミング、共著メンバーの趣味やなりゆき(笑)でとりあげられなかったスコーピオンズ、AC/DC、ヴァン・ヘイレン、ラット、クワイエット・ライオットなどにも触れられている。
さらにこの号では、同特集とは別に「1960〜80年代 記憶に残る一発屋ランキング」という特集も組まれ、その種のバンド、アーティストたちの“あの人は今”が記されている。
なので「大人のロック!」最新号は、『バンド臨終図巻』読者向きの内容になっている。逆にいうと、同誌のこれらの特集に興味を持った読者は、『バンド臨終図巻』を買ったほうがよいということである(笑)。
それにしても、このような誌面構成なら「大人のロック!」最新号で『バンド臨終図巻』を紹介してくれてもよかったのに……と思わないでもない。