ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

ゲイリー・ニューマンの紙ジャケ再発

シンセ・ポップの開拓者の一人、ゲイリー・ニューマンの初期作品が、バンド時代も含め紙ジャケで再発された。
《TUBEWAY ARMY》ASIN:B0006BA0XK
《THE PLEASURE PRINCIPLE》ASIN:B0006BA0XU
《TELEKON》ASIN:B0006BA0Y4
《I,ASSASSINASIN:B0006BA0YE
――の4枚である。
なんで今回、出世作の《REPLICAS》(チューブウェイ・アーミー名義)が紙ジャケ化からもれたのか不思議だし、彼の落ち目を象徴したと思われてる《DANCE》だってJAPANのミック・カーンやクイーンのロジャー・テイラーがゲスト参加した曲は面白いぞとか、いろいろあるけれど、とりあえず再発を喜びたい。
今回の再発盤全部に大量のボーナス・トラックが入っているが、特に興味深いのは《TUBEWAY ARMY》に収録されたデビュー前ライヴからの13曲。ライナーで美馬亜貴子が書いている通り、ゲイリー・ニューマンは一時期「1枚=100円箱」の定番になっていた。僕は今回ボーナス収録されたデビュー前ライヴのブートレグの中古を、数百円で買った記憶がある(彼の変形ピクチャーシングルなんかも安かったんでいっぱい買ったなー)。
公式デビュー盤《TUBEWAY ARMY》のサウンドが厚みや音色、リズム感などのうえでリード・ソロ抜きのヘヴィメタル+シンセといった印象であるのに対し、まだシンセに手を出す前の最初期ライヴの音は、完全にパンクの質感である。最初のシングルになった〈ザッツ・トゥ・バッド〉などは、パンクとしてキャッチーだし、よくできている。また、後に〈フレンズ〉に改作される〈ドゥ・ユア・ベスト〉、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァー〈ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート〉ASIN:B0002ZEUK4、このデビュー前ライヴを聞くと、サウンド進化のプロセスを追体験できる。
《THE PLEASURE PRINCIPLE》で完成するニューマン・ミュージック(それにファンク色を加えた《I,ASSASSIN》が、現在に至る彼の活動のプロトタイプになった)は、簡単にいうとウルトラヴォックス《システムズ・オブ・ロマンス》ASIN:B0001FACCUる。そのウルトラヴォックスは、ジョン・フォックスが率いた初期に、プログレ・パンクと呼ばれもした。初期ウルトラヴォックスやゲイリー・ニューマンはシンセを使ってはいてもロック・バンド的な演奏が多く、リズムボックスやシーケンサーによってエレクトロニックにグルーヴを組み立てる曲は少なかった。だから、(ヒューマン・リーグみたいな)エレポップよりは、実はプログレの感触に近かったりもした(ウルトラヴォックスもゲイリー・ニューマンもヴァイオリンを使って、ちょっとクラシカルな響きを混ぜることをしていたし)。
自閉状態に対して親和的な詞をよく歌った点では、ゲイリー・ニューマンはニューウェイヴ同世代のザ・キュアーに通じるものがあったが(SFとゴスの差はあるけどメイクの濃さも共通でした)、同時にピンク・フロイドロジャー・ウォーターズに似ているともいえる詞なのであった。ニューウェイヴであると同時に、ヒステリックなプログレ、気短かなフロイドともいえる音楽性だったのだ。
このプログレとエレポップの狭間にあるようなアーティスト性が、ニューマンの立ち位置を微妙にしてしまったことは否めない。これまでにも何度か再評価の兆しはあったが、今度こそ本格化して欲しい、と切に願う。

レプリカズ

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