1月某日
先日の『治療塔』『治療塔惑星』から大江健三郎を遡り『芽むしり仔撃ち』を久しぶりに読み返した。記憶以上によかった。『治療塔』二部作と『芽むしり』は、汚れた地(前者と後者に共通するのは疫病)に見捨てられた弱者と一度は脱出したものの帰還して再び権力をふるう強者という構図が相似している。
大江の作品をふり返るなら、『芽むしり仔撃ち』のシチュエーション×『ピンチランナー調書』の父子年齢“転換”に匹敵する“若返り”のSF的設定が『治療塔』二部作といえるだろう。
2月6日
最近、複数の本を並行して読むようになっているのだが、ステイホームがうるさくいわれるのにうんざりして旧約聖書『出エジプト記』もその1冊に入れている。ああ、どこかへ脱出したい。
今は大江健三郎も読んいでるから、長沢唯史『70年代ロックとアメリカの風景』EL&P章の“聖地エルサレム”登場で、おお、ウィリアム・ブレイクでつながった、もちろん聖書とも、てなわけでシンクロを楽しんでいる。『70年代~』を手にとる直前にめくっていたのはブレイクと聖書の間にいるジョン・ミルトンの『失楽園』の解説だったりするし。
2月7日
昨日『出エジプト記』読んだので今日は海が割れるシーンしか見たことなかった映画『十戒』を観た。4時間近くあってモーセが神の声聞くまで2時間もある。でも、必要以上に踊りの場面があったり、娯楽大作としてとても楽しめた。
エジプト人の奴隷にされたヘブライ人を率いることになるモーセ役のチャールトン・ヘストンが、後に映画『猿の惑星』で猿の奴隷にされる人間の側の役をやったのは面白い。
『猿の惑星』には聖書劇のパロディみたいなところがある。テイラー(ヘストン)とノバの人間男女が猿の社会から離れ海岸を行くラストは、楽園を追放されたアダムとイヴ、あるいはエジプトを脱出したモーセたちとも重なる。だが、モーセが十戒を神から授けられたのとは異なり、テイラーが物語の最後に見るのは、人類が神から見放された証拠なのだ。
-最近の自分の仕事
芥川賞候補5作に共通した「テーマ」とは? 円堂都司昭が読み解く、文芸の現在地 https://realsound.jp/book/2021/02/post-700313.html
そえだ信『地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険』のレビュー → 「ハヤカワミステリマガジン」3月号