ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

津田大介『だれが「音楽」を殺すのか?』

だれが「音楽」を殺すのか? (NT2X)
レコード輸入権CCCD、違法コピー、ファイル交換、音楽配信など、音楽著作権にかかわる問題を解説した注目の本。コンピュータがらみの技術や法律など、とかくややこしくなりがちなテーマを、一冊のなかでわかりやすく解説した好著である。著作権にかんする規制強化を批判する論調ではあるが、アーティスト側、レコード会社側の立場にも気を配っている。なんでもかんでも自由化しろという安易なアナーキズム趣味には陥らず、バランスのとれた議論を展開。この種の話題では“敵”視されるレコード会社に対し、新たなビジネスモデルを提案してもいるんだから、建設的だ。
僕は、レコード輸入権CCCDも反対である。CCCDについては、この本の発売と前後して、推進派だったエイベックスが適用弾力化を、SMEが取りやめを相次いで表明し、風向きは変わった。PL法が成立し、ISO導入が広まった90年代後半以降、製造者の責任や品質保証に対する外部からの要求度は高まったはず。それなのにCCCDは、販売後の動作に責任をとらないことを平気で打ち出した困りものだった。消えゆくのは、当たり前だろう。
先行する表現の享受のされかたに自由さがなければ、それを吸収しての未来への音楽発展は鈍ってしまう。けれど、著作権が保護されなければ、表現者の活動基盤は危うくなる。だから、ある程度の規制は必要だ。――この理屈は、当然だと思う。ただ、自由と規制の線引きに関しては、僕は「曖昧」な部分を残しておくことが大切だと考えている。
CCCDの“コピーコントロール”という言い回しに象徴されるように、個々の情報の流れや使用状況をできるだけ管理下に置きたがる傾向がある。しかし、CDショップが近所にあるかどうか、あるいはコンピュータをどの程度使いこなせるかといった地域差や個人差など事情がいろいろあるのに、それらを無視して、ばっさり一律で規制しようとする方向には違和感を覚える。
書籍についてもそうだ。少部数の本とベストセラー、大型書店が多数ある都市部とほとんど書店がない地方の差を考慮せずに、図書館の貸し出し問題を論じるのを聞くと首を傾げざるをえない。だったら、状況に応じて規制の線引きのしかたを変えていけばいいかといえば、例外規定を多く設けようとした段階でさらに矛盾が指摘されて、またもや議論が紛糾するだろうことは目に見えている。結局、現実的には、ある程度目をつぶる「曖昧」な部分を残しておくしかない(実際、今がそうだし、これからもそうだと期待する)と思うのだが、どの程度の「曖昧」さがふさわしいかは、はっきりいえないわけだ。なにしろ、それは「曖昧」である必要があるんだから。このへんに、著作権問題を語ろうとする時の難しさがある。


ところで、本書の奥付にある警告文には、違和感を覚えた。

本書は著作権法上の保護を受けています。本書の一部または全部について(ソフトウェアおよびプログラムを含む)、株式会社翔泳社から文書による許諾を得ずに、いかなる方法においても無断で複写、複製することは禁じられています。

同種の警告は他の出版社の本でもたまに見かけるが、翔泳社の文章は、なかでも高圧的な部類ではないか。この但し書きは、本書の主張内容とは明らかにズレている。著者は普通、本文のゲラ校正はしても、奥付ページのチェックは出版社任せのことが多い。この本では、原盤権を持つレコード会社と音楽を作るアーティストの考えかたのずれを話題にしていたが、翔泳社津田大介の間で、その関係性を反復してしまったような皮肉な奥付である。
津田は、終章でローレンス・レッシグ(訳書はすべて翔泳社から)の議論に触れつつ、許諾を得なければ合法的に利用できないわずらわしさを語っていた。

だが、いちいちこういった許諾を求める作業は面倒くさいし、時間もかかる。そこで公開時に、自分の作ったものに対しどのような扱われ方まで許諾するのかをCC(筆者注:=クリエイティブ・コモンズレッシグが提唱するライセンス方式)で明示すれば、公開する側も利用する側も面倒な手続きがなくなって余計な労力が減り、どんどん新しい著作物が出てくることが期待される。

本書はこの「CC」を掲げたわけではないが、津田の姿勢はあとがきで鮮明になっている。

〜ガチガチのコピーガードをかけて少数の人にしか読まれないくらいなら、コピーされまくってでも、多くの人が読んでくれた方が著者としてはうれしい。

この本は立派な啓蒙書だし、著作権を考えるための勉強会を催す人たちが、部分をコピーして出席者に配布するなんてことも行われると思う。というか、そういう風に使われるために書かれた本だろう。お役所側の文章とか著作権法の改正部分などを引用したページなどは、勉強する側からみると、非常に手ごろな情報素材なんだから。しかし、そんな引用箇所だって版元のいう「本書の一部」なわけだし、やはり許諾が必要なんだろうか?
ちなみに、僕は出典を明記すればOKと考え、「文書による許諾」など得ずに、ここへ文章を書き写した。「いかなる方法においても」っていうんだから、これも「複写」の一種かもね。
まぁ、皮肉はこれくらいにして、音楽著作権を考えるには本当にいい内容なので、音楽ファンには部分だけでなく全部を読むに値する本だと、今さらながら記しておきます。

  • 今夜の献立
    • 揚げ豆腐、しのだ豆腐、厚揚げ、がんもどき(以上もらいもの)を、こんにゃく、鶏肉、ごぼう、干ししいたけと安易にめんつゆ(かつお)で煮る
    • えのきと長ネギの味噌汁
    • もやしをチンして冷ました後、ミニトマトと一緒にポン酢
    • 残りもののキムチ
    • 白米――全体的に、そこはかとなく投げやりな調理。もらいものの賞味期限がそろそろであることに気づき、とにかく一挙に処理しようと急いだのが敗因であった。