ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

NEWS23のHuman Audio Sponge

CHASM

CHASM

昨夜の「筑紫哲也NEWS23」は、番組15周年ということで坂本龍一が出演していた。冒頭で番組のテーマ〈put your hands up〉をピアノ演奏しただけでなく、彼の英語曲〈War & Peace〉を日本語でリメイクした様子を大々的に特集したのが目玉。《CHASM》収録ヴァージョンでは、アート・リンゼイの詞を複数の人が読み上げる形だったのに対し、今回は「平和を祈る詩」を募集して選んだものを書いた本人たちに朗唱させていた。
けれど、出来はいま一つ。坂本が用意したトラックの上に、採集した「声」をただ並べるのでなく、重ねたりずらしたりしながらのせている。工夫しているわけだけど、これがどうも単調に感じられる。彼は以前にも地雷反対の主旨で、いろんな歌手や民族音楽などを配した〈ZERO LANDMINE〉を制作し、やはり特集番組が組まれたことがあった。あの曲と同様の失敗を、反戦・非戦の意思表示である今回の〈War & Peace〉プロジェクトでも繰り返していた。
そのメッセージが有効かどうかという議論の前に、まず音楽表現として退屈なのである。かつて坂本は、80年代を代表するチャリティ・ソング〈ウィ・アー・ザ・ワールド〉について、有名歌手を揃えてただ順番に歌わせる構成が退屈だと罵倒したものだが、その退屈さを本人が〈ZERO LANDMINE〉でも〈War & Peace〉でも反復している。坂本のメッセージ・ソング2曲は、採集した音素材につき1つ1つの個人性や地域性の高さをアピールしつつ、それらを平等に扱ってみせる。ことさら民主主義的、機会均等的に素材を扱ってみせて、そのことで相互を尊重する「平和」な世界を象徴させようとする。けれど、音素材が多様であるがゆえに、逆にビートの均質な一定スピード加減が目立って聞こえ、聴感が平板になってしまう。
昨夜の番組中盤、今回の日本語版〈War & Peace〉のPV風映像が流された。その内容は、日本各地のいろんな年齢の男女が、それぞれ日々過ごしている空間に立ち、各人の方言で自分の詩を唱える作りになっていた。また、詩の朗唱者には素人と有名人が混じっているのだが、画面構成上は同程度に扱われた印象が残るよう編集されていた。音楽の質を反映した映像編集方針なのである。
しかし、人と土地の結びつきが崩れて相互侵犯が行われるのが戦争なのだし、民主主義的・機会均等的な価値観の前提にある一種の均質空間が成立しえないのが戦争である。貧富の差、宗教観の異なり、政治体制の違いなどから、外の世界が自分たちの世界と同質の基盤に立ちうる、相互に尊重しあえるだなんてまるで想像できない状態。そういう戦争状態に抗おうとする音楽が、これほどあっさりと均質さを前提に表現されると、現実と理想の乖離ばかりがみえて、残念ながらしらけてしまう。
PV風映像で流れたのが、“日本語ミックス”とでも呼べる音だったのに対し、番組最後には、あらためてスタジオ・ライヴで披露され直した。「坂本龍一SKETCH SHOW細野晴臣高橋幸宏)」=Human Audio Spongeに、小山田圭吾、ムーグ山本の布陣で演奏され直した〈War & Peace〉は、メンツが揃っているだけに、単調になりがちな曲に微妙に色彩が加えられた印象だった。アレンジによっては、もう少し上手いぐあいに聞かせることも可能な曲だとは思うが……。