ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

ミュージカル『トミー』

昨日、東京厚生年金会館にて、ミュージカル版『トミー』を観た。

  • 興味深かった点
    • ステージ上部にバンドの演奏するスペースを設けてある。物語前半では、見えない聞こえない話せないの三重苦を抱えた少年トミーの内面を、青年トミーがバンド・スペースに立って歌う趣向。
    • ステージの左右から頻繁に“仕切り”を出してきて、それを開閉することで扉に見立てたり、場面転換を図ったりする。トラウマによって閉ざされたトミーの心の象徴的表現。
    • オリジナル盤《トミー》の歌詞を読んでも、ストーリーとして不透明な部分がけっこう多い。それを可視的な物語にするため、どうつじつまをあわせるか? トミーのコンサートに出かけたために怪我をする〈サリー・シンプソン〉の挿話をトミーの共同体確立の契機だったとする展開、トミーが信者たちに離反される過程の言葉のやりとりなど、ミュージカル版には映画版にはなかった“呑みこみやすい因果関係”の描写が用意されていた。
  • 物足りなかった点
    • バンドの演奏もキャストの歌唱も、全体的にお行儀がいいので、音楽がやや平板に聞こえた。ミュージカル『ウィ・ウィル・ロック・ユー』は、クイーン・ミュージックのメロディの豊かさに支えられていたが、ザ・フーの曲はあそこまでキャッチーではない。キース・ムーンのドラミングみたいな“破調”な要素がないと、ザ・フーのロックは十分に映えない。そんなミュージカル版で、比較的楽しく聞けたのは、〈アイサイト・トゥ・ザ・ブラインド〉、〈アシッド・クイーン〉か。ただし、前者は映画版『トミー』のエリック・クラプトン・ヴァージョン、後者は同ティナ・ターナー・ヴァージョンを手本にしていた。ザ・フーっぽくない雰囲気のアレンジのほうが目立つというのは、本末転倒かも……。
    • どうしても既知の映画版を基準に観てしまうので、アーニー叔父さんによる虐待、いとこのケヴィンによるいじめの場面が生ぬるく感じられる。舞台なんだから、もっと体を張ってやってくれないと……。

トミーが信者たちに離反される展開までは、各版とも共通である。映画版ではその後、一人ぼっちになったトミーが丘に登り朝日を浴びて終わる。また、93年初演のブロードウェイ版では、裏切られたトミーが家に帰り、両親と抱き合ったのだという。
しかし、今回のミュージカルは、基本的にそのブロードウェイ版の脚本ではあるが、結末をまた変えている。一人になったトミーは、ギターを弾きながら〈リスニング・トゥ・ユー〉を熱唱する。そして、どんどん音楽がクレッシェンドしていくと、いったん離反したはずの人々がトミーの周囲にまた集まってきて合唱になる。それで、ジ・エンド。
……? トミーの共同体は崩壊したの? 回復したの? テーマに対する着地点が、曖昧になってしまっている。
購入したプログラムの場面表をみると、信者たちの離反=〈俺達はしないよ〉、トミーの孤立=〈シー・ミー、フィール・ミー〉は、「1967年、トミーの家」での出来事とされている。そして、人々がまた集まる〈リスニング・トゥ・ユー〉は、「1968年、コンサート」の場面だという(特にそうした舞台装置には見えなかったが)。

その後、トミーはザ・フーになって、ライヴ活動を行いました――ということなのでしょうか……。〈俺達はしないよ〉までの展開が、映画版以上につじつまのあった流れになっていただけに、この結末は不可解。


ピンボールの魔術師〉の称号を持つトミーに、わざわざギターを抱えさせ、腕を風車みたいに回すピート・タウンゼントのアクションまでさせてしまう演出は、やりすぎだと思う。かつての映画版のトミー役は、ザ・フーのヴォーカル=ロジャー・ダルトリーだった。これに対し、ミュージカルの脚本を共同で担当した作曲・作詞者ピートが、トミーとはロジャーのことでなく俺のことなんだと主張したくて、トミーにギターを持たせたんだろうか。なんだかなぁ。
そういえば、どうしてもヴォーカリストフレディ・マーキュリーのイメージに支配されがちなクイーン像に対し、自分のお手製ギターを“神器”と設定したSFストーリーのミュージカル『ウィ・ウィル・ロック・ユー』をプッシュしたのが、ギタリスト=ブライアン・メイだった。あのミュージカルでも、ギターという小道具が目立っていたっけ。『ウィ・ウィル・ロック・ユー』は、ザ・フーのロック・オペラからいろいろな要素を引き継いでいたが、ヴォーカリストに対してギタリストが抱える特有のコンプレックスってのも、あるいは遺産の一つだったかもしれない。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050613#p1
トミー [DVD]

  • 18日夜の献立
    • ポークジンジャー(こしょうをして小麦粉をはたいた豚肉をサラダ油で焼き、取り出す。そのフライパンで玉ねぎのスライスを丹念に炒める。おろし玉ねぎ&しょうが、しょうゆ、酒、みりん、リンゴ酢を入れて煮詰め、焼いた肉を投入。ゆずこしょうでタレの味を調整して出来上がり)
    • ごぼう、にんじん、大根、あぶらげできんぴら
    • ほうれん草のおひたし(ポン酢)
    • 雑酒&チューハイ
    • カラムーチョ
  • 19日夜の献立
    • さばの塩焼き
    • 前日のきんぴらに茹でたさやえんどう追加(緑色が加わり、多少見栄えがよくなった)
    • ひじきと湯葉をだし汁で煮てレタスにトッピングし、茹でたさやえんどうも入れる。そんでポン酢
    • ほうれん草の味噌汁
    • 若干きびを混ぜた白米ごはん