ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『試作品神話』

試作品神話

試作品神話

大塚英志西島大介と組んで発刊したこの絵物語は、『多重人格探偵サイコ』フェア対象作品の一つだが、べつに『サイコ』ワールドと関係のある内容にはみえない。では、大塚英志つながりで『サイコ』フェアに勘定されただけかというと、それだけでもないような……。
お前らは大人たちにだまされている――と、神様からそそのかされた6人の子どもが、ミルクタンク襲撃のテロを敢行する。けれど、結果的に世界を破壊してしまった彼らは途方に暮れ、自分たちが特別な存在ではなく、ただの子どもだったことに気づく――そんな寓話的な内容だ。
考えてみると、運命から選ばれた八犬士(『南総里見八犬伝』)のぼたんの痣みたいな聖痕ではなく、大量生産品であることを示すにすぎないバーコードが眼球に刻まれている――それが『多重人格探偵サイコ』の起点となるイメージだった。そのような、選ばれてあることの否定、特別な存在であることの否定というモチーフが、『試作品神話』でも反復されている。
『サイコ』のバーコードを刻まれた人たちがそうであるのと同じく、『試作品神話』の6人の子どもたちは、八犬士のごとき存在からあまりに遠い。
(『試作品神話』に登場する14歳ばかりの6人組のうち、赤ん坊にしか見えないキャラ=ベビー・ディケンズが混じっているのは、青年剣士が結集する『八犬伝』において犬江親兵衛1人が童子的に描かれていたことを引き継いでいるかのようにも読める)
(関連旧文章http://www.so-net.ne.jp/e-novels/hyoron/syohyo/25.html
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20060106#p1

多重人格探偵サイコ』11巻、『デスノート』10巻

(17日記)
『サイコ』に関しては、ストーリー(およびメディアミックス)の複雑化、煩雑化が進行してから、いまひとつノリきれないところがあった。でも、11巻はよいね。時をさかのぼり、“前日談”的なことをやってくれているので、複雑化、煩雑化する前のこの話がどういう面白さだったか、思い出させてくれる。このマンガも、人格が揺れる不安――という、ごく素朴な恐怖を核に始まったんだよなぁ。
そういえば、同じくストーリーの複雑化――つうかルールの煩雑化で読むことに疲れ始めていた『デスノート』も、11巻は一息つける内容だった。善悪をすっぱり分けて悪人はどんどん殺せという考えを持つに至る魅上照の挿話は、夜神月デスノートを手にして人々を裁く力を得た瞬間の高揚ぶりを思い出させた。その意味で、初巻のシンプルな問題意識に立ち返ったみたいな挿話になっている。
午後9時から始まる2時間サスペンス・ドラマの場合、途中からチャンネルを変えた視聴者のため、10時前後の段階でそれまでの捜査状況をおさらいする場面を入れたりする。『多重人格探偵サイコ』11巻、『デスノート』10巻にみられる初期テーマの再確認には、そんな風に親切な“2時間サスペンス的やさしさ”を感じてしまった(笑)。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20051220#p2


それにしても、月(ライト)が「キラ」ッで、その信奉者の名が「照」。光だらけですね。
多重人格探偵サイコ (11) (角川コミックス・エース)
DEATH NOTE (10) (ジャンプ・コミックス)

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