ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

細馬宏通『うたのしくみ』『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』

うたのしくみ

うたのしくみ

ユーミンの“やさしさに包まれたなら”の「S」「さ」、“卒業写真”の「SH」という、それぞれ歌で頻出する音声に着目する。ヴァース+コーラス、コール&レスポンスの作法がいかに成立したか、歴史をふりかえる。チャック・ベリーの跳ね上げられる足、両手が交差するドラマーの演奏といった身体に焦点をあてる……。
発声、言葉、メロディ、リズム、伴奏、曲の構成、身体、歴史などなど。曲や音楽家ごとに注目すべきポイントを定め、様々な要素がいかに関連しあっているかを細馬宏通『うたのしくみ』は、見出していく。その手さぐりの感覚が、面白い。
これは、細馬の近著『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』に通じる批評術によって書かれた本だ。同書で細馬は、絵がどのように動き始め、どのように音と同期するようになったのかについて、初期のアニメーションをふり返っていた。
あらかじめ理論を用意しておいて、それにあてはめるのではない。歌orアニメにおいて起きている現象を手さぐりでていねいに観察し、現象が発生した時点まで歴史をさかのぼりもして、「しくみ」を考えること。細馬のスリリングな二冊は、その姿勢が共通している。