- 作者: 小野俊太郎
- 出版社/メーカー: 彩流社
- 発売日: 2014/05/15
- メディア: 単行本
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水爆怪獣として誕生した『ゴジラ』(1954年オリジナル版)がシリーズ化され、やがて子ども向けの怪獣プロレス路線へと転じていった。
そんな昭和シリーズに対し、『ゴジラ』(1984年版)は、原点の恐さへと仕切り直した。同作について小野の本では、ゴジラへの攻撃でカドミウム弾が使用されたことに言及している。
カドミウム合金は中性子を吸収するのだが、同時にカドミウムは富山県のイタイイタイ病の鉱毒で知られるように、毒性をもち体内に入ると人体を蝕む。生物であるゴジラに撃ちこまれたカドミウム弾は、原子炉としてのゴジラの停止と、生命体としてのゴジラの停止を狙ったものである。
イタイイタイ病は、四大公害病の1つに数えられている。このことは、怪獣プロレス路線のなかで、珍しく社会批判を伴った暗さを持っていた『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)のことを思い出させる。同映画の主題歌“かえせ!太陽を”の歌詞では公害に関連した物質名が並べられ、そのなかにはカドミウムも含まれていた。
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『ゴジラ対ヘドラ』は、核によって生まれた怪獣と公害で生まれた怪獣を戦わせる皮肉な内容だった。ゴジラ(84年版)対カドミウム弾の構図は、その変奏にみえる。
また、小野のゴジラ論は、昭和シリーズにおけるゴジラの監視・管理が、「怪獣島」「怪獣ランド」(←怪獣のいるディズニーランドのようなもの)といった空間への囲い込みだったのに対し、平成シリーズでは、テレパシーによってゴジラと同調しコントロールする方法が出てくることに注目する(←この発想の延長線上でシリーズ新作がゼロ年代以降の日本で作られていたなら、ソーシャル・ネットワークのなかにゴジラを位置させ、同調・監視する方法も考えられていただろうか?)。
小野は語る。
脅威との共存あるいは監視しながら生活をしていくという現実的な選択だった。風や地震のような「現象」としてのゴジラを捉え、数値化することによって、人間の管理下におけるという考えでもあった。それをたえず裏切るのが他ならないゴジラともいえるのだが。
平成シリーズには、ゴジラ=原子炉という発想があったのだから、「風や地震」のようであるだけでなく、原子力発電所に関し「脅威との共存あるいは監視しながら生活をしていくという現実的な選択」を当時の映画が反映していたのでもある。それを裏切るのが原発……ということも意識して『ゴジラの精神史』は書かれている。
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