ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

クイーン1982『オン・ファイアー』

オン・ファイアー / クイーン1982 [DVD]
前作《ザ・ゲーム》の大ヒットに気をよくして、一気にファンク/エレクトロニック路線に突っ走ったら、あまりにそれまでのクイーンのイメージとは違ったため商業的に失敗してしまった《ホット・スペース》。その時のツアーから、英国ミルトン・キーンズ・ボウルでのライヴ映像。ロジャー・テイラーのドラム・セットのなかにシモンズ(六角形のシンセ・ドラム)があるあたり、時代を感じさせる。
ハード・ロック・バンドとしてデビューしたクイーンも、《オペラ座の夜》以降、スタジオ盤ではフレディ・マーキュリー、ジョン・ディーコン、ロジャー・テイラーによってポップ化が進められていった。これに対しライヴでは、ブライアン・メイがデビュー時みたいなハード・ロック中心のサウンドに引き戻そうと孤軍奮闘し、他の3人がそれに巻き込まれるような図式があった。フィフティーズ的なロックンロール、クラシカルなバラード、ファンク、エレポップ……どんなスタイルの曲でも、ブライアンはライヴでハード・ロック的なギター・プレイをしたがる。フレディによるあのパフォーマンス以外で、クイーンのライヴをエキサイティングにしていたのは、ポップとハード・ロックで綱引きをしていたがゆえの、緊張感をはらんだパワー・バランスだったと思う。
このライヴの見どころは、珍しくディーコンがギターを弾く〈ステイング・パワー〉だが、彼のいかにもファンク的で歯切れのいいコード・カッティングと、メイのハード・ロック感覚のリフ演奏は好対照をなしている。ファンク、エレクトロニックといった、それまでのクイーンらしさにはなかった要素が大々的に入り込んだ《ホット・スペース》ツアーは、特に綱引きが激しくなっていて独特なテンションがある。しかも、ニュー・アルバムがセールス不振なのを知りつつツアーしていたわけで、このまま負けてたまるか、という思いもあったはず。僕はこの時期のライヴ、けっこう好きだ。
ボーナス・ディスクには、オーストリアとともに西武球場でのライヴ映像も収録されており、フォト・ギャラリーのBGMは同球場で演奏された〈コーリング・オール・ガールズ〉。しかし、2枚もディスクがあるのに、《ホット・スペース》でのバンド変身を象徴したシングル曲〈ボディ・ランゲージ〉が収録されていないのが、残念。僕は収録された日の西武球場公演を見たが、「Look at me〜」からのフレディとロジャーのハモリは本当にカッコよかった。ただ、この日は、〈プレイ・ザ・ゲーム〉と〈ボディ・ランゲージ〉でフレディの声が思いっきりひっくり返っちゃったんだよね。だから、使われなかったんだろうけど。
〈ボディ・ランゲージ〉は結果的に、アルバムのセールス不振を呼び寄せたような曲だし、メンバーにとっては思い出したくない過去かもしれない。けれど、この時期のバンドをこれほど表した曲もない。だから、BGMでもいいから、どこかから使えるテイクを探して、いずれ公式に発表して欲しい。

クイーンのコアなファンは、《クイーンII》のサイド・ブラックのメドレーを絶賛する。同感だ。そして、ファンク路線で一気に押し切った《ホット・スペース》ASIN:B00005GKOX時、僕は新時代のサイド・ブラックがやって来たと、彼らの“やる気”に大喜びしたのだ。この評価は、今も基本的に変わっていない。

ところで、〈ナウ・アイム・ヒア〉の時、フレディが、マイク・スタンドから引っこ抜いたみたいないつものマイクではなく、普通のワイヤレスマイクで歌う(アルバム・ジャケットに合わせて、原色カラーのテープ?が巻いてある)。でも、やっぱりあの棒つきマイクじゃないと、すごく違和感あるなぁ。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20041220