ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

ベック《ザ・インフォメーション》(とデーモン・アルバーン)

ザ・インフォメーション(DVD付)
94年に〈ルーザー〉をヒットさせ、注目を集めた頃のベックを特徴づけていたこと。それは、ロック、フォーク、ブルース、ヒップホップ、テクノなど、雑多な音楽要素を扱う際の、彼の“手つき”だった。「ロー・ファイ」なんてカテゴリーに入れられもしたベックは、ハイテクとは反対の無造作かつ朴訥な“手つき”で多くの音楽情報を取りまとめ、音楽にした。そのハンドリング感覚が、当時は新しいと受けとめられた。その後、10年以上が過ぎ……。
「インフォメーション」だなんて、新鮮さが重視されそうな単語をタイトルにした新作は、意外にも、ベックとして特に新機軸を打ち出したものではない。前作《グエロ》に続き、ベックがベックらしい手法で音楽を鳴らしている――そんな内容。“新鮮さ”より、むしろ“熟成”が勝っている。
ただ、ジャケットに関しては方眼紙になっているだけで、CDを買った人が封入されたステッカーを使ってクリエイトしてくださいという趣向である。アルバム・デザインに関しては「ロー・ファイ」というか、買い手側の“手つき”、“ハンドリング”が想定されているのだ。
ベックは《ザ・インフォメーション》の音楽のハンドリングでは新機軸を見せなかったものの、デザイン面では付加価値、オマケとして、ハンドリングの遊びを盛り込んだわけ。
このことは、デーモン・アルバーンを連想させる。90年代半ばにブリット・ポップ流行の中心にいたブラーのデーモンは、ブリティッシュ・ロック/ポップ・ミュージック史の遺産を手っ取り早くミックスした音楽性で、人気を得た。彼の身軽な感覚は、UKの新世代を印象づけた。
それに対し、デーモンが後に結成したゴリラズは、ヒップホップへの接近という変化はあったが、音楽情報を扱う“手つき”において特筆するほどの新奇さはなかった(むしろ、プロデューサーやゲストの配役などにみえる、デーモンの老獪さを面白がるべきだろう)。
しかし、ゴリラズの場合、デーモンは一歩後ろに引いて、アニメキャラクターにバンドのメンバーとする形をとった。そこでは音楽のハンドリングだけでなく、プロモーションやライヴを行ううえで、アニメキャラをどんな風にハンドリングしていくかも興味の対象となる。
ベックの《ザ・インフォメーション》は、ジャケットの遊び以外に、初回盤は収録曲全てを映像化したDVD付きだ。一方、ゴリラズのほうは間もなく、彼ららしい遊戯的映像集の第2弾『フェイズ2:スロウボート・トゥー・ハデス』を発売する。
90年代には、音楽のハンドリングに関して新世代の感覚を代表すると思われたベックやデーモンが、今では付加価値的なハンドリング感覚で自らの立場を補強している。
彼らのやっている音楽は、音楽だけで相変わらず楽しく聞けるので、僕としてはべつにいい。いいのだけれど……アーティストとしてベック、デーモン、それぞれのトータルな見えかた、立ちかたを昔と今で比較すると、時の流れを感じる。

フェイズ2:スロウボート・トゥー・ハデス [DVD]

フェイズ2:スロウボート・トゥー・ハデス [DVD]

  • 11日夜の献立
    • チキンのソテー(にんにく、サラダ油。オニオンパウダー、こしょう、小麦粉。みりん、カプサイシン入りしょうゆ)
    • レタス、海藻、きくらげ、ミニトマトのサラダ(ポン酢、マヨ)
    • 豆腐、ニラ、長ネギの味噌汁
    • 玄米ごはん