ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

朝日新聞「公貧社会」/浦安

朝日新聞が毎週土曜日朝刊の連載企画として始めた「公貧社会」。タイトル通り、ワーキング・プアなどの問題を取り上げていくようだが、第一部は「派遣の村」が増えているという「千葉・東京ベイエリア」を舞台に選んでいる。
そして、12日付の第1回の記事を読むと、浦安も「派遣の村」がある代表的な地域として紹介されていた。そこには、送迎バスで仕事先に通う派遣社員の視界に映る風景として、次の記述があった。

全国の市町村の中で屈指の財政力を誇る千葉県浦安市の中でも、街路樹にヤシの木が並ぶ高級感あふれる住宅街をバスは走っていく。10分もたたないうちに風景が一変した。着いたのは、工場や倉庫が立ち並ぶ、通称「鉄鋼団地」の一角だった。

残業していると、ディズニーランド閉園前の恒例の花火の音が聞こえてくる。
「もう何年も行っていない。別世界ですね」

補足すると、浦安市は、昔は漁村だった元町地域(東京メトロ東西線沿線。僕が住んでるのはこのへん)と、埋立地である中町・新町地域で色合いが違う。そして、JR京葉線沿いに広がる埋立地は、東京ディズニーリゾートのある舞浜と新興マンションが並ぶ新浦安(いわゆる“マリナーゼ”が住むところ)に分けられ、両者の中間地帯に鉄鋼団地はある。
昭和から平成にかけての日本の経済成長/停滞・低迷の歴史を、これほどくっきりと、マンガ的なまでの色分けで見せている地域も珍しいだろう。“新聞記事にしやすい”街なのだ。


そして、同日付の新聞には、千葉大広井良典教授の研究室と朝日が共同で行った、千葉・習志野台・新浦安住民に対する意識調査も掲載されていた。その記事では、格差問題などについて質問したアンケート結果に基づき、新浦安住民の姿をこうまとめていた。

格差への対応を「自己責任」と割り切る新浦安の住民が重視するのは「教育」だ。

このくだりには、笑ってしまった。
浦安市は、若い世帯の流入が多い新町地域を中心に児童数が増えてきた。しかし、2006年に給食費未納問題がクローズアップされた際、千葉県内で最も未納者が多かったと報告されたのも浦安市である。「自己責任」だ、重視するのは「教育」だといっている新浦安の教育現場が、こう報道されていたのだ。いったいなんなんだろう。


(ちなみに、浦安市の給食といえば最近、国産だと偽ってブラジル産の鶏肉を納入した業者が問題になった。でも、浦安市周辺のスーパーを回ると、現在、安売りされている鶏肉はブラジル産が多い。そりゃ偽装表示はまずいかもしれんけど、どうせ子供たちも家に帰ればブラジル産を食う機会が多いんだから、学校でも食わせときゃよくね? だいたいろくに給食費が払われないでコスト的な圧迫もあるんだったら、それこそ安い肉をあてがっときゃよくね? ――などとも感じる。)
元祖!浦安鉄筋家族 19 (少年チャンピオン・コミックス)


「公貧社会」の記事は、ワープアと新浦安住民をあまりにもわかりやすく図式化しすぎているきらいがあるし、給食費未納問題については、一種の“神話”ではないかとする意見もある。
豊かさってなんだろう、と素朴に思う。