ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『最後のパレード ディズニーランドで本当にあった心温まる話』 (ディズニーと労働 1)

最後のパレード 
(読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090419-OYT1T00854.htm
サンクチュアリ出版)http://www.sanctuarybooks.jp/parade/


盗用問題でいろいろ騒がれている本である。
ディズニー従業員が体験した(とされる)“泣ける話”集だが、これを読むと驚いてしまう。ディズニーランドには死を間近にした人や障害を持った人しか来園しないのか――といいたくなるほど、その手のエピソードばかり並べられているのだ。


よく知られている通り、ディズニーでは、客はゲスト、従業員は(ショーの出演者だけでなくただの清掃人まで含めて)キャストと呼ぶ。つまり、テーマパーク全体が演技空間なわけだから、「東京ディズニーランドのキャストだけが知っている涙が止まらない物語」と帯に書かれたこの本も、「ディズニーランドで本当にあった」という副題の設定を、文字上でキャストに演じさせたかった本なのだろう。
自分は、そのようにとらえている。


東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドにかつて勤務していたという著者の中村克は、あのテーマパークが特別な場所であることを本書で強調する。働く場としても特別であることを。
しかし、浦安市内の路線バスをよく利用する僕は、オリエンタルランド本社前から乗車して帰宅する同社従業員たちが、あの部署の上司がどうのこうの、シフトがどうのこうの――などと、話しているのを何度か耳にしたことがある。
その意味では、オリエンタルランドだって、ごく普通の職場だと思う。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050705#p1


追記:『最後のパレード』には、「死」をめぐる“美談”が多く収録されている。
一方、浦安市は1977年、舞浜地区に墓地公園を作ることを決めた。しかし、80年代半ば、オリエンタルランドからディズニーランドの近くに墓地があるのはイメージダウンだとする異議が出され、その後、市は移転を余儀なくされた経緯がある。
つまり、物語としての「死」はいいが、市民の日常としての「死」はノーサンキューなのが、「夢と魔法の国」的な論理なのだ。
それにしても、著者・中村克のブログ、すごい展開になってるな。経緯については、ここ↓とか。
http://majilife.seesaa.net/article/118040701.html

篠山紀信『MAGIC』 / 斎藤環「TDL」の「ヘアヌード」 (ディズニーと労働 2)

篠山紀信 at 東京ディズニーリゾート MAGICNUDE by KISHIN美術手帖 2009年 04月号 [雑誌]
篠山紀信『NUDE』特集だった先月号の「美術手帖」で、斎藤環が[「TDL」の「ヘアヌード」]と題した論評を寄せていた。客のいなくなったテーマパーク内でキャラクターたちを激写した写真集『MAGIC 篠山紀信 at 東京ディズニーリゾート』に触れて斎藤はこう書いていた。

『MAGIC』には、いくつもの発見がある。なかでも最大のものは「テーマパークは観客のまなざしを『着る』ことでファンタジーとして完結していたという事実だ。無人のテーマパークは、いままで誰もみたことがないほど生々しいフルヌードを、篠山のカメラの前に存分にさらけ出している。その姿は、意外なほど脆弱で繊細だ。

ディズニーリゾートにおける“ゲスト−キャスト”の関係を、斎藤は“まなざしを『着る』”と表現したわけである。『MAGIC』では、客のいない園内でのキャラクター同士のデート現場が写真になっている。ディズニーリゾートのなかには、白雪姫と王子のように、着ぐるみではなく生身の人間が演じるキャラクターもいる。彼らの逢瀬の写真には、斎藤のいう「生々しい」感じが確かにある。それを見た直後に、ミッキーとミニーのデート写真を見れば、なるほど「ヘアヌード」っぽく思えなくもない。


ここで思い出すのは、2年前のディズニー・キャラクター乱交動画流出騒動である。
http://blog.goo.ne.jp/shadyjpn/e/9997efb23b77eccb03bb56d1196d2974
ディズニーリゾート・パリの従業員が、キャラクターに扮したまま性行為の真似をした画像が世界中に流れたのだ。これなどは、ゲストの「まなざし」を脱ぎ捨てた「フルヌード」だった。
この下品な一件を知っていたから、お上品にまとめられた紀信『MAGIC』が「ヘアヌード」だといわれても、無修正映像のあとにモザイクあり映像を見せられたような、微妙な脱力感を覚える面があるのは否めない。
残念。狙い目はよかったけど、一足遅かったよ、紀信&環。


ゲストの「まなざし」を脱ぎ捨てたという意味では、昨年、本家ディズニーランドの労働者たちがキャラクターに扮してデモを行ったところ、逮捕されてしまった出来事も記憶に残っている。これもべつの意味で生々しかった。
http://labaq.com/archives/51081662.html
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20080819#p1

テーマパーク行きのバス/派遣労働行きのバス (ディズニーと労働 3)

浦安市内の主要路線バスは、オリエンタルランドが出資する東京ベイシティ交通が走らせている。東京メトロ東西線浦安駅舞浜駅東京ディズニーランド間のバス路線も同社である。
浦安に住んでいると、停留所に止まる一般路線以外のバスも頻繁に見かける。ディズニーリゾートに向かう観光バスや、温泉リゾートの送迎バス以外にもよく走っているのだ。それらの行先表示には、「××ロジスティクス」、「××物流」などと掲げられている。
実は、東京ディズニーリゾートに隣接する浦安市東京湾埋立地には、物流倉庫が並んだ地域があり、そこに通う派遣労働者たちのための送迎バスが多く運行されているのだ。
(ディズニーリゾートに遊びに来た人たちは気にしていないだろうが、最寄りのJR京葉線舞浜駅、次の新浦安駅からも倉庫行きのバスは出ている)
で、その種のバスの一部を、東京ベイシティ交通も運行しており、同じ車種がディズニーリゾート行きと物流倉庫行きの両方に使われていたりもする。同じバスでも行先がえらく違うよな、と複雑な気持ちで見ているが……。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20090331#p1

ディズニーランドでワンカップ (ディズニー ネタ おまけ)

本の雑誌」最新号に、高野秀行「ディズニーランドは赤の広場だった!?」という探訪エッセイが掲載されている。
http://www.webdoku.jp/honshi/
そこにはなんと、原則的に園内にアルコールを置いていない東京ディズニーランドに、杉●松●がワンカップを持ち込んだことが記されている(東京ディズニーシーの方ならアルコールが呑めます)。
●江●恋といえば、プロレスラーのようなあの風貌である。もし、その持ち込み行為を見つけたとしたって、ミッキーマウスもカストーディアルもビビってしまい、とても注意できないだろう。
暴挙である。TDLでヘアヌード――に匹敵するハレンチさなのである。
これは、ディズニーリゾートのある浦安の市民として、びしっと言っておかねばなるまい。
杉江松恋は反省しる!」
(追記:謝罪http://d.hatena.ne.jp/ending/20090507#p1