ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

鳥飼否宇『太陽と戦慄』

キング・クリムゾンの代表曲の1つ〈太陽と戦慄partII〉は、大雑把にいってアグレッシヴなギター・リフが耳に残るヘヴィ・メタル的な部分と、ヴァイオリン中心のメロディアスな部分とからできている。そして、映画『エマニエル夫人』サントラ盤には、〈太陽〜〉のヘヴィメタ部分そっくりの〈強姦 RAPE SEQUENCE〉、〈太陽〜〉のメロディアス部分によく似た(ベース・ラインなんかほとんどまんま)〈愛のエマニエル(ヴァリエイション) EMMANUELLE THEME(INSTRUMENTAL VARIATION)〉という2曲が収められていた。まるで、分割したパクリ。
――てなことをご存知かどうかわからないけれど、鳥飼はクリムゾン好きなうえ、かなりのロック通だ。クリムゾンから日本語タイトルを借りたこの新作長編『太陽と戦慄』ISBN:4488017088、目次をみると「危機」、「狂気」なんて章タイトルがある。イエスピンク・フロイド。だが、プログレにとどまらず、もっとゴチャゴチャいろいろロック・ネタが放り込まれているので、気になるかたは探索してみるといい(と書いてる自分もどこまで把握できたんだか……)。
ストーリーは「導師(グル)」と呼ばれるクリムゾン好きの男が、ストリート・キッズを集めてロック・バンド(その名も「ディシーヴァーズ」)を組ませるところから始まる。まず、テクのないバンドはパンクで出発するが、T-レックスのカヴァーをやり始めたのち、ニルヴァーナ的なサウンドを加味するようになる。つまりグランジ・グラム化して、自称「グラグラ」の音楽性を獲得する。しかし、デビュー・ライヴ当日、ジョイ・ディヴィジョンイアン・カーティスが自殺したのと同じ日に、「導師」は殺害されてしまう。その10年後、「導師」作詞の曲をなぞるように爆弾テロが頻発するようになった……。
本格ミステリ系でカルト集団ネタをやる場合、その共同妄想のありようをコッテリ描写するのがある種定番になってきたけれど、この作品はそれをさらっと書いているのが、逆に妙な味になっているかも。この皮肉な幕切れを演出するために厚く装飾を施すのではなく、むしろあっさり流しているのも、かえってリアルな気がする。現実のカルトって、コッテリしてるよりも、こんな風に軽はずみなんじゃないか、と思ってみたり。
あと、この小説を読んでいて落ち着かなかったのは、語り手の誕生日が4月8日だったこと。作中で触れられる通り、これはカート・コヴァーンの自殺体が発見された日だ。で、この小説では言及されていないが、お釈迦さまの誕生日であると同時に、アイドル岡田有希子が自殺した日であり、おまけに僕の誕生日だったりもする。この日を迎えると、ちょっとあれこれ連想したりするんだよね。
なお、鳥飼『太陽と戦慄』がクリムゾン、ジョイ・ディヴィジョンに言及し、ジョン・レノンの〈ゴッド〉の一節を引いている点は、法月綸太郎の『頼子のために』、『ふたたび赤い悪夢』あたりの趣味を連想させるが、特に彼を意識した部分は僕には見当たらなかった(法月にも『誰彼』という新興宗教ものがあったりするけどね)。

太陽と戦慄 (紙ジャケット仕様)

太陽と戦慄 (紙ジャケット仕様)

ああ、そういえば、佐藤友哉フリッカー式』では、ケータイの着メロが〈太陽と戦慄〉なのだった。