ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

草間彌生展

(「水玉強迫」。下の黄色ヴァージョンが今回展示されていた)
クサマトリックス/草間弥生
自分の同居人は、極端な“斑点”嫌いである。幼い頃、皮膚にブツブツができて膿が出て苦しんだことが、トラウマになっているらしい。彼女は、小さい丸や球が密集している様子に接すると、不快さのあまり叫び声をあげる。だから、先端部が丸い触手をびっしり生やした水棲生物なんかが映る海洋番組を一緒に見ることなどできないし、ロックのライヴ映像にも気をつけなければならない。だって、アンコールの演出でよくあるでしょ、天井から風船がいっぱい降り注ぐパターンが。あれを小さな画面で見ると、腐りかけた柱にみっしり虫の卵が産み落とされているのと同じ感覚を、風船から受けるらしいのだ。だから、いつだったか彼女をだまして、本屋で草間彌生の画集を開かせた時には、店内に大きな悲鳴が轟きわたった。なにしろ、「水玉強迫」のアーテイストであるからして、斑点嫌いの人からすれば天敵なのである。
というわけで、『草間彌生:永遠の現在』展(東京国立近代美術館)には一人で行った。彼女を連れて行けば、暴れて展示品を毀損しかねないのだからしかたがない。宝塚展、ポップ・アート展を見たその日に、3件目のはしごであった。さんざんケバい色彩を摂取して視覚が疲れたあとに、あんな伝染りそうな水玉模様を見たのだから、頭もお腹もいっぱいいっぱいになった。ホントに、大馬鹿者である。
しかし、鏡の間に小さな光をたくさん灯したインスタレーション「水上の蛍」の空間に1人だけでいた数十秒間は、かなり気持ちよかった。光が伝染してきそうで、眩暈がした。