ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

山田正紀著『イノセンス』

イノセンス After the Long Goodbye
今年を回顧する特集において、押井守監督『イノセンス』は、期待はずれだった作品の代表格みたいに扱われている。日本SF大賞を受賞した同作は、中華シーンや球体関節人形の動作、店内でのアクションなどに代表される映像美には感激したが、ストーリーはいまひとつもの足りなかった――というのが定説になっている。僕も同意する。だから、今後もこの映画は“絵”ばかり記憶されそうだが、忘れるにはもったいないお話もあったことを書きとめておきたい。山田正紀による小説版『イノセンス After The Long Goodbye』である。
映画『イノセンス』の公開にあわせて書かれたコラボレーション・ノベルだが、いわゆるノベライズではない。士郎正宗押井守が構築した『攻殻機動隊』の世界観を借りて、また別のストーリーを展開したサイバーパンク・ハードボイルド・ミステリ。
電脳がもたらす特異な精神風景を、執拗に描写しているのが、小説ならでは面白みである。特に、電脳が初期化される瞬間の空白こそが“イノセンス”だという設定が優れている。ガイノイドに情動を与えるため、人に愛されたことのある犬の意識を移植するというグロテスクな発想が、さほどアクションが多いわけでもない作品世界に独特の緊張感をもたらしている。また、独り者の主人公バトーが、夢でなぜかいつも会う息子に対し、愛しすぎた犬は意識を初期化されてしまう、と説明するところには、グロテスクな哀切感がある。映画版に欠けていたのは、お話としてのこうした“膨らみ”だったのではないか。
この小説には、“解離性フラッシュバック”という病名が登場する。斎藤環が「解離」をキーワードに語っている心理学的状況が、ここでは電脳という設定によって増幅され語られているわけだ。
とりあえず、犬好きには必読のSFかも。

  • 夕べの献立
    • 太刀魚のひらき(もらいもの)
    • 水菜とひらたけ+にんにくスライスを焦がしたゴマ油大根おろし+ポン酢
    • ひらたけ、たまねぎ、にんじん、キャベツ、欧風だしのスープ
    • 発泡酒、チューハイ
  • 今晩の献立
    • ひじき、にんじん、大根、ごぼう、鶏肉の煮付け
    • カマスのひらき
    • ワカメスープ(欧風だし)
    • キャベツと玉ねぎ、干しエビの炒め物(中華だし+しょうゆ+かぼす酢)
    • 玄米1:白米1のごはん