ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

北村薫『ニッポン硬貨の謎』

ニッポン硬貨の謎
国名シリーズをもじったタイトルがつけられ、小説中では前期エラリー・クイーン論が展開される。扱われる事件のほうは、『九尾の猫』ISBN:4150701180イーン風のもの。しかも、作家エラリー・クイーンフレデリック・ダネイ)の来日エピソードを下じきに、名探偵エラリー・クイーンの日本での冒険譚を展開している。そんな凝った仕立てにより、多角的にクイーンを扱えるようにして、思う存分遊んだわけだ。と同時に、『競作 五十円玉二十枚の謎』ISBN:4488400523北村薫からの解答でもある。
この作品は、クイーンの未発表作を北村薫が訳した体裁をとっている。“外国人の勘違いしたニッポン”パターンのパロディでもあり、探偵エラリー&書き手クイーンの日本理解=誤解に対して注釈でツッコミが入るのが愉快。注釈は巻末に集められるのではなく、1、2と分かれたそれぞれの章の後ろに置かれている。しかも各章は長くないので、こちらは、本文、注釈、本文、注釈、ボケ、ツッコミのリズムに乗って読み進めることになる。
そのツッコミは、犯人の心理分析を中心とする終盤の謎解き部分にまで及ぶ。エラリーは、自らの推理の部品として日本文化に言及するのだけれど、注釈で誇大解釈ぶりなどが指摘される。数章にまたがる謎解きの最中においても、ボケ、ツッコミのリズムは続くのだ。読者としては、注釈が入るたびに、エラリーの推理における日本趣味の装飾が剥がされ、ロジックの骨格が露わにされるみたいな感覚がある。名探偵が語り進める推理の内容を、まるでレントゲン写真による連続写真で見ているような……。ディスコのストロボ・ライトに「推理」が照らされているような……。
この謎解き部分は、本格ミステリのロジックはどのようにしてドライヴがかかり、謎解き場面のグルーヴが生まれるのか――パロディの形でではあるが、くっきり浮き上がらせている気がする。それが面白かった。



おかげさまで、体調は回復基調です。
なので、仕事のご用命をお待ちしております。本気です。

  • 30日夜の献立
    • 豚肉とキャベツの炒めもの(刻みニンニク&しょうが、豆板醤、テンメンジャン、しょうゆ、オイスターソース、こしょう)
    • きんぴらごぼう
    • トマトときゅうり(マヨ)
    • 大根の味噌汁
    • 玄米100%ごはん