一人の高校生が「死のノート」を手に入れたことによって、全世界の人々に死を与えうる力を持つようになる。そんな“一対全”の図式でスタートしたこのマンガも、初期設定の応用に次ぐ応用を重ねた結果、物語はどんどん“多対多”の形へインフレ化してきたのだった。
ノートの所有者であり殺す側のキラ、キラを追う名探偵のエル、殺す者に憑く死神……。ストーリーが進むごとに、キラ、エル、死神、それぞれのポジションにつく登場キャラは、いずれも複数化してきた。つい最近までキラが別のキラを追う話だったが、7巻以降はエルの立場を乗っ取った者と、エルの後継者たらんとする二人による三つ巴の闘争に移り変わった。また、巻を追うごとに、話の核であり特別なものであるノートの冊数自体が増えてきたのだ。物語はここまでインフレの度合いを強めているというのに、なおこれだけのテンションで維持しているのは偉い。
キラやエルは最初に登場した際、特権性のイメージを帯びていたはずだが、今ではすっかりワン・オブ・ゼムの、いくらでも代わりのいるポジションになっている。読む側も、それを不自然と思わない。
特権的な立場ですら相対的なものでしかない――そんな皮肉な光景を、このマンガはエンタテインメントに仕立てている。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050210#p2)