(上記短編の展開に触れます)
- 作者: 綿矢りさ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/10/05
- メディア: 文庫
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文庫化された『インストール』に追加収録された書下ろし「You can keep it.」を読む。待望の新作――なんてほど気張ったもんではない。ボーナス・トラック的な、ちょっとしたコント。
どんどんモノをあげることで友だちとつながっている男子新大学生=城島が主人公。彼は、ちょっと魅かれてる女の子に、インドに行ったと偽り絵葉書をあげようとする。でも、話してるうちにウソがバレ、怒らせてしまう。そんだけの話。……そんだけなんだけど、男子の脆弱さをここだと定め、ツンツンとピンポイント攻撃する手際のよさは、『蹴りたい背中』の「にな川」に関する書きぶりを思い出させる。
短編の冒頭でいきなり、城島が友だちに腕時計と香水をあげたことが紹介される。このうち香水については、男である城島が自分でつけていたものを、女友だちから「いい匂いに男も女も無いよ」とねだられ、新品同様のままあっさり瓶ごとあげたのだった。城島はバイオリンをくれてやったこともあるし、お話が進むと自分の着ていたシャツを脱いで汗のにじんだまま友だちに渡す場面まで出てくる。また、彼が物をあげることで人とつながるのを覚えたのは、小学生時代に転校生が教室でクラスメートたちに鉛筆を配るのを見てからなのだった。
こうしてみると、友だちにあげるものとして、作者が身につけるモノや触るモノを集中的に選んでいることに気づく。接触感のあるモノを通して、他人との接触欲求を発散してるわけです、城島は(しかもそれは、男女の境界線を越えていた)。
一方、インドの絵葉書を贈るつもりだった相手は、実はインド行きの経験のある女の子だった。そんなこと予想せず、インドに行ったとウソついた城島は、話をあわせられない。彼女はインドの思い出を共有できるかもしれないと話しかけてくるのに、城島はそれを裏切ってしまう。
人と物では接触できましたが、心では接触できませんでした――わかりやすいオチではある。
で、城島のくすぶる接触欲求はどうなる? 最終ページにかけてこんな文章がある。
思っていたよりも気が強いみたいだからな、あいつ。そこまで考えてから、頬づえをついた城島の顔が、身体が、ぶわりと火照った。
とりあえず行き場をなくした彼の接触欲求は、頬づえして自分で自分に触るしかなくなった。――これが、もう一段のオチ。
オチて恥じるこの感覚は、振り返ればどこかしら自分の過去にも覚えがあったりするわけで(ピンポイント攻撃、ツンツン)、「ぶわり」の文字を読んだ瞬間、思わず自分の頬も赤くなってしまったね。
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ようやく原稿書きのネタとしてではなく、趣味でCD聞く時間が戻ってきた。フランツ・フェルディナンドの新譜、キング・クリムゾン、イエスのライヴBOXなどを代わりばんこに聞きつつ、煮物したり皿洗ったり。−−僕らしい日常である。