ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「忠臣蔵」と「いろは」

昔、『仮名手本忠臣蔵』をベースにしたベジャールのバレエ『ザ・カブキ』を見た時のこと。歌舞伎の“落とし幕”みたいな演出があった。舞台にすとんと大きな幕が落ち、そこに文字が並んでいる。
「いろはにほへとちりぬるを……」
ひらがなが全部書いてあったのだった。
それを見て、一緒に観劇していた友人が怒りだした。「ストーリーに関係あると思えないひらがなの羅列を視覚効果として使うのは、自分とは縁のない海外の名称が記されたTシャツを着て喜ぶ馬鹿な日本人と変わらない。ベジャールはアホなオリエンタリズムに染まっている!」――と。友人の口ぶりがあまりにも激しかったので、当時の僕は呑まれてしまい、“落とし幕”の演出について、それ以外のとらえかたがまったく思い浮かばなかった。
けれど先日、北村薫のある本を読み返していて、ああ、そうだったか、と腑に落ちた。「いろは」は四十七文字。赤穂浪士は四十七士。だから『“仮名”手本忠臣蔵』と題されたという……。
つまり、ベジャールが『ザ・カブキ』で「いろは」四十七文字を書いた幕を落としたのは、あれは四十七士の直接的なメタファー(ってなんか言い方変だけど)だったと解釈するほうが自然。こんな簡単なことに、今さら気づきましたよ。
假名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋
というわけで、12月14日は、赤穂浪士の討ち入りの日。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20051019#p1