ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『ニッポン硬貨の謎』と“ウロボロス”

  • 最近書いたもの
    • 「謎のカタログ 本格ミステリ・プロファイリング 第9回北村薫 「私」と“わたし”のギャラリー」 → 「ジャーロ」2006冬号(光文社)

――上の文章を書きながら、ふと思ったこと。
北村薫『ニッポン硬貨の謎』には、名探偵エラリー・クイーンと作家エラリー・クイーンが重ねあわされて登場し、ヒロインは若竹七海をモデルにしている。また、翻訳者を名乗り注釈を多くつける北村薫本人まで、ほとんど登場人物の一人と化している。そのほか、編集者戸川安宣、ミステリ研仲間だった瀬戸川猛資折原一など、本のあちこちに名前がみえる実在人物も、ある種の出演をさせられているととらえることができる(あと、名は出てこないが某作家をイメージした少年とか)。そうした虚実混交は、竹本健治の“ウロボロス・シリーズ”に近いような。
『ニッポン硬貨の謎』は、1977年の作家クイーン来日時の事件と設定されている。これは、竹本健治がデビュー作『匣の中の失楽ISBN:4575508470幻影城」に連載していた時期にあたる。同作には人形に由来する名の人物ばかり出てくるが、竹本はその少し前の時期、友人たちを実名で登場させた小説を書いていたそうで、そのモチーフが『匣』の一部に流れ込んだという。
ミステリ・マニアを物語の中心にすえ“メタ”な遊びを仕掛けた点で、『ニッポン硬貨の謎』は、竹本健治の一連の作品と親近性をみてとれる。けれど『ニッポン硬貨』は、『匣』や“ウロボロス・シリーズ”みたいな破天荒さに雪崩れ込まず、あくまで節度ある遊戯に終始する。このあたり、北村薫の作風や人柄を体現している気がした。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050830
ニッポン硬貨の謎