ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

三浦展 講演「郊外化する社会」

昨日、浦安市立図書館にて、三浦展の無料講演会があった。市民税を払った分のサービスを自治体から受けてやろうじゃないかと、勇んで聞きに行った(なんのこっちゃ)。
一般市民向けの講演だから、難しい内容ではない。基本的には、『「家族」と「幸福」の戦後史』ISBN:4061494821、『ファスト風土化する日本』ISBN:4896918479あり、そこに『下流社会ISBN:4334033210 のネタをちょこっと混ぜた内容だった。
ジャスコなどを中心に量販店、ファミレス、カラオケが並ぶ幹線道路沿いの郊外(=「ファスト風土」)で犯罪件数が増えており環境破壊も〜――というお得意の自説を三浦は展開したわけだが、そこで安易に「スロー風土化」を推奨するのはいかがなものか。今のように「ファスト風土化」が進んだ経済的必然性はあったはず。その必然性を解体する理屈を示さないまま、単純に「スロー風土」なんてただ反転させただけのキーワードを持ち出しても……という印象は否めない。マーケティング畑の人なのに、産業や市場の状況に伴う必然性に無頓着そうなのが、なんか不思議。
講師が話しなれているため聞きやすくはあったが、既に本で読んだ内容ばかりだったので、正直な話、2時間のうち1時間くらいは睡魔と闘っていた。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20051213#p2


しかし、この講演を企画した浦安市立図書館は、大いにほめてあげたい。ここは自治系図書館としては頑張っているほうで、期間ごとに設けている特設コーナーの本のセレクト、紹介の冊子などは力が入っている。僕が市民税を収めているのは、この図書館を応援するためといっていい。
三浦によると、図書館側からこのテーマでの講演依頼があったのは、昨年6月だったという。したがって、『下流社会』がベストセラーになる以前のことであり、話題の人になったから呼んだわけではない。東京のベッドタウンである浦安の市民向けに、郊外を考えるきっかけを与えたいという図書館の心意気がうかがえる。
この講演で三浦は、巨大ショッピングモールのなかで1日の大半をすごせてしまう不自然で人工的な生活を、『トゥルーマン・ショー』のシーヘヴンに喩えていた。この映画に出てくる街=シーヘヴンは、実はTVセットであり、そこに生活させられる主人公の人生は世界に放映されていたのだった(この映画については、北田暁大が『広告都市・東京』ISBN:433185017Xしていた)。
この種の人工的なゾーニングは、東京ディズニーシー&ディズニーランドの真骨頂だが、それにほど近い、JR京葉線新浦安駅周辺の新興マンション地域にも、同様の設計思想が漂っている。新しく埋立てられたこの地区は、道路が広く、商業・レジャー施設はある範囲にまとめられ、公園も計画的に点在させられ、居住地域には余計な要素が入り込まぬようゾーニングが目指されている。その意味で、人工的な場所を論じた三浦の講演のテーマは、新浦安を最寄り駅とする住人向けだったと思う(ここらへんに暮らす奥様が、いわゆるマリナーゼですな)。
ところが……講演に来た人々を見回すと、ご年配のかたが意外に多い。ちょっと、病院の待合室に似た風景っつうか。どう見ても、埋立地の新興マンションの住人より、内陸寄りの昔からの地元民が多い。彼らは、東西線浦安駅近くの旧漁村地域の人々だろう。住宅と商店とお稲荷さんがごちゃごちゃ密集し、狭い路地が多いあたり(僕はこちらへの移住民)。ナムコナンジャタウン的な、昭和の懐かしさがまだ漂う場所の人たち。テーマに対し、微妙に来場者がミスマッチ。
また、ベストセラーの著者の講演だから、あっという間に参加枠が埋まるかと思ったら、どうもそうではなかったらしい。図書館内に貼られた告知ポスターは、最初、講師とテーマくらいしか書かれていなかったが、後から「あの『下流社会』の」みたいな叩き文句が貼り足されていた。『下流社会』が売れたからといって、著者の名はさほど浸透しておらず、同著者によるほかのテーマにも関心を向けようという人もわりと少ないらしい。昨今の新書ブームに群がる“教養趣味”の温度がどの程度か、今回の講演開催に対する一般市民の反応でわかるような気がした。


とはいえ、図書館側の着眼や意欲を僕は買うし、今後もへこたれず頑張って欲しいと思う。
GO! GO!浦安市立図書館!!
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050426

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