「週刊アスキー」10周年記念号(12月11日号)http://www.ascii.co.jp/books/magazines/wascii.shtml
同号の特別付録は、東浩紀・桜坂洋・清水亮が原案・監修の2045年版「週刊アスキー」。そこでは2045年の製品も紹介されているのだが、パロディ企画であるから珍妙なムードが漂っている。
東浩紀本人も、こうコメントしている。
とにかく、2045年の秋葉原の取材記事があったり架空の携帯デバイスの画像があったりといろいろ遊びが詰まっていますので、ぜひ手にとってお読みください。
そして、もちろん、2045年にはそもそも週刊誌なんて存在しないんじゃないか、というツッコミはなしの方向でお願いします(笑)。
「東浩紀の渦状言論」11月21日
http://www.hirokiazuma.com/blog/
例えば、扇風機やエアコンの存在を知らない人が、未来の合理的な冷房を想像した時、全自動うちわというアイデアが出てくるかもしれない。その種のズレた発想をわざとやっているのだ、2045年版「週刊アスキー」は。胸の液晶シートに動画が映るTシャツとか、デバイスのついたクロックスとか。
ペン型PSPデバイス/スティックブック
掲載された2045年の製品群のなかで、おや? っと思ったのは、スティックから電子ペーパーを巻き物のように引き出せるPSP(Public Service Platform)デバイス。一度にたくさんの図表や文章を表示できるワイドな電子ペーパーが、胸ポケットに挿して運べるペンに収まっているのだ。電子ペーパーという最近の技術と、巻き物という古典的な形態を合体させたあたり、全自動うちわ的なおかしみのある製品である。
そして、電子ペーパーを引き出せるこのペン型デバイスは、スティックブック(棒本)というやはり架空の製品を思い出させる。
ビジネス機械・情報システム産業協会は、電子ペーパーの普及に向けた調査研究を目的として、電子ペーパーコンソーシアムを設けている。同コンソーシアムでは今年初めて電子ペーパーアプリコンテストを催し、電子ペーパーのユニークな使用法を募集した(アイデアに関して、現時点での実現可能性は問わない)。コンテストの各賞の表彰式は11月16日に行われたが、そのなかで斬新賞を与えられたアイデアが、スティックブックだった。
(受賞者一覧はこちら。http://www.jbmia-epaper.jp/modules/tinyd0/)
スティックブックは円柱状の電子ペーパーであり、それを回すことにより長い文章が読める仕組みになっている。要するに、横に細長い画面を、手で回してスクロールさせるのだ。
膨大な情報をペン型の小さな道具に入れてしまおうという発想が、ペン型PSPデバイスとスティックブックでは共通している。そして、これらの発想は、(携帯電話なんてものがなかった)1970年代に「週刊少年サンデー」で連載されていた聖日出夫のマンガ『試験あらし』を思い出させるところがある。
聖日出夫『試験あらし』
『試験あらし』は、主人公の高校生が多彩なカンニング・テクニックを駆使し、試験を切り抜ける物語だ。この場合、参照すべき情報を試験会場へいかに持ち込むかがポイントになる。見つかってはいけない。かさばってもいけない。主人公は、下じき、衣服、机、椅子など身の回りの物にいろいろな仕掛けを施して、難局を乗り越えていく。なかでも重要なアイテムとなるのが、筆記具である。
鉛筆の側面に文字を書いておく。または鉛筆を縦に割り、その内側に書き込んで開閉できるようにする。あるいは、みっしりと答えを記した紙をボールペンの芯に巻き物のように巻きつけ、ペンのプラスチックの側面に窓をあけて引き出せるようにする――などなど。
なるほど、膨大な情報をコンパクトな形で携帯したいという欲望は、カンニングする者が最も強く持っているのだろう。だからなのか、ペン型PSPデバイスもスティックブックも、結果的に、『試験あらし』の主人公の発想をどこかなぞったようなものになっている。これらの製品は、筆記具に偽装しやすそうだし。
情報を集積し携帯する技術に関心を持っている人は、『試験あらし』を読んでみたらどうか。携帯電話が普及するはるか前に、情報の携帯方法をあれこれ夢見ていたこのマンガは、ひょっとすると今後の開発のヒントになるかもしれない(笑)。
(『試験あらし』は現在入手難のようだが、内容を詳しく紹介しているサイトも存在する。かといって、カンニングは奨励しませんけどね)