ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

宝塚花組「明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴」

(警告! 結末に触れています)

黒蜥蜴 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

黒蜥蜴 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

NHK衛星第2で放映された宝塚花組明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴」の公演を見た。
江戸川乱歩の「黒蜥蜴」は、これまでに何度も脚色されてきたわけだが、三島由紀夫脚本で美輪明宏が女賊を演じた舞台が一番の成功作だろう。また、京マチ子主演の映画は、ミュージカル仕立てで面白い味を出していた。だから、トランスジェンダー歌劇団である宝塚が「黒蜥蜴」に手を出したがるのは、理解できるのだ。
宝塚の場合、男役、娘役の役割分担がはっきりしているが、『ベルサイユのばら』のオスカル、『風と共に去りぬ』のスカーレットなど、主役級の気の強い女は男役が演じるという伝統がある。だから、宝塚版では、女賊・黒蜥蜴を、ふだん男役をやっている人に演じさせるのだろうと思っていた。
ところが、木村信司の演出・脚本によるこの舞台は、娘役トップの桜乃彩音に黒蜥蜴をやらせていた。桜乃は歌唱力に難があるものの、背中にトカゲの刺青を持つ妖艶な女賊をなかなか力演していたと思う。しかし、結局、宝塚では、娘役は男役の前で泣き崩れるのが定番なのである。
「どうか結婚してください」
明智小五郎春野寿美礼)が歌ってプロポーズ(!)すると、希代の女賊・黒蜥蜴は、自分は「まだ男も知らないのよ」と恥じらいながらも感激し、素直に自首することを決意してしまう。


なんじゃ、そりゃ。


そのうえ、恋に溺れた黒蜥蜴は、自分が実は明智と兄妹だと知り、絶望のあまり自害。そのショックでふぬけとなった明智は探偵稼業を半年以上も休業するが、小林少年たちの励ましの大合唱によって、ようやくやる気を取り戻す。それで、幕。めでたし、めでたし……って


なんじゃ、そりゃ。


この脚色は、なんなんだろう? 明智のカッコいい名探偵というイメージは、ラストの甘ったれた休業状態で一挙に崩れ落ちるし、さんざん妖艶さを強調した黒蜥蜴が、実は生娘でしたはねえだろーが。
三島版にあった、明智と黒蜥蜴の拮抗による美は、ここにはない。2人とも、脆弱なキャラになってしまっている。男役同士でキャスティングすることを前提に、演出・脚色プランを練っていればこうはならないはずだ。
また、黒蜥蜴のエロティシズムを前面に出したかと思うと、いきなり少年探偵団がはしゃいだり、ベタなギャグが続いたり、大人向けにしたいのか子ども向けにしたいのか、演出の狙いが定まらない。行き当たりばったりに、場面をつぎはぎしているだけだ。


あきれたね、まったく。


「宝塚プレシャス」に舞台写真と劇評が掲載されている↓。ここの評者はまだ好意的に書いているものの、やはり集団シーンの安易さは批判せざるをえなかったようだ。それほど、この舞台で多用される集団シーンは、人数さえ出せば盛り上がるだろうという演出家の怠慢があからさまになっている。
http://bbkids.cocolog-nifty.com/takarazuka/2007/02/post_ebdf.html
宝塚で「黒蜥蜴」なら、本当はもっと面白くなるはずなのだ。だから、腹が立つ。ほかの演出家を連れて来い!