ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「コンテンツ・メディア業界の1998年問題」、e-NOVELS

昨夜は、夜のプロトコル・アカデミー:講座01回「コンテンツ・メディア業界の1998年問題」(津田大介×いしたにまさき×速水健朗)を見に行った。
http://www.yorutoko.com/2009/02/post-6c34.html
新聞、雑誌、音楽CD、TVゲームなどの市場のピークが97〜98年だったことに着目し、コンテンツ・メディアの変化をふり返った座談であった。かなり濃い内容で、面白かった。全体的に、よくできた時代の見取り図になっていたと思う。これについては話を整理したうえで、図表をたっぷり入れて文字化して欲しい。


で、昨夜の座談を聞きながら思い出していたのが、e-NOVELSのこと。
我孫子武丸井上夢人(後に離脱)、笠井潔が中心となり、作家たちが自分の作品を産地直送するという発想で電子書籍販売サイト「e-NOVELS」をスタートしたのが、99年だった(ごく少額だが、自分もe-NOVELSの株主の1人だった)。今思うとそのスタートは、「98年問題」以後の、出版業界が変化し始めた時期を絶妙にとらえたタイミングではあった。
しかし、その後、電子書籍は当初期待されたような発展はしないままであり、e-NOVELSは参加作家数を拡大しコンテンツ数を増やしたり、紙の出版物と連携を図るなどしたものの、ある時期から後退戦を余儀なくされた。こうしてプロ作家たちによる電子書籍販売が挫折する一方、素人によるケータイ小説が流行するような皮肉な展開にもなった。
コンテンツ・メディアの先行きを予測するのは、えらく難しい。


最近のゼロアカ道場に参加している批評家の卵たちは、ニコニコ動画などのメディア環境を利用しつつ、批評の場を求めている。
これに対し、創元推理評論賞受賞者などが参加した探偵小説研究会は、99年から2000年代はじめにはe-NOVELSを一つの主戦場にしていた。その執筆参加は販売コンテンツとしてよりも、作家特集や週刊書評などアクセス数増加のための、いわば客寄せのための記事が多かったけれど。とはいえ、電子書籍に対する期待があった当時のメディア環境と、批評の場を求める探偵小説研究会の意向がマッチした時期というのはあった。自戒をこめて記すが、探小研のメンバーはその足場が縮小、変化していったことについてしっかりと記憶し、意味や背景を考えておくべきだろう。
東浩紀が現在連載を持っている「ミステリーズ!」が創刊される以前に、東京創元社が発行していた雑誌が「創元推理」であり、創元推理評論賞は同誌で第10回まで行われた)
CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ (NT2X)タイアップの歌謡史 (新書y)

  • 最近自分が書いたもの
    • MONO《Hymn To The Immortal Wind》の短いディスクレビュー → 「ロックス・オフ」Vol.7 asin:4401632826