ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

『リトル・ピープルの時代』、『ドーン』、『一般意志2.0』

(『ゼロ年代の論点』その後のメモ2)

リトル・ピープルの時代
私が『ゼロ年代の論点』を書いている頃にはまだ東浩紀と友好関係にあった宇野常寛が、結果的に東と決別した後に刊行したのが『リトル・ピープルの時代』だった。
「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会

『「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』に私が寄稿したディストピア小説論「悪しき統治を想像する」では、オーウェル『一九八四年』も論じた関係で、同作を意識して執筆された村上春樹『1Q84』、村上の同作を論じた『リトル・ピープルの時代』にもわずかだが言及した。
『リトル・ピープルの時代』では帯に記されている通り、「〈虚構の時代〉から〈拡張現実の時代〉へ」が一つのテーマになっていた。それに対し、「悪しき統治を想像する」では、震災後の状況に対しては〈拡張現実〉という言葉以上に、平野啓一郎が未来小説『ドーン』でAR( Augmented Reality)の訳として使った造語〈添加現実〉のほうが、語感としてしっくりくると述べた(なぜかは『「統治」を創造する』を読んでほしい)。
『リトル・ピープルの時代』に関しても、「革命ではなくハッキングすることで世界を変化させていく〈拡張現実の時代〉」という宇野のテーマ設定は、〈拡張現実〉の語を〈添加現実〉に脳内変換したほうが、現実に働きかけていく能動性をよりイメージしやすくなると思う。私はそのように読んだ。
ドーン (100周年書き下ろし)

「悪しき統治を想像する」もそうだが、『「統治」を創造する』という西田亮介・塚越健司編の共著は、全体として東浩紀『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』の議論も視野に入れ刺激も受けて書かれている(上の書影のように『「統治」を創造する』帯には同氏の推薦文もある)。
一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

民主主義と情報技術の関係について『一般意志2.0』で自らの夢を語った東と、情報技術から生まれた〈拡張現実〉をキー概念にして社会を論じようとした宇野にはテーマのうえで接点があったはずだが、最近のツイッターでの2人のやりとりを見ると感情的な齟齬もあるようで不毛な平行線に陥っている。その点は、残念。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20110208#p1