ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

矢野利裕『コミック・ソングがJ-POPを作った』からミーコの回想へ

 

コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史 (ele-king books)

コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史 (ele-king books)

 

 

 私が2013年に刊行した『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』のワーキング・タイトルは「音楽遊び」だった。音楽を論ずるとなると、作品としてのアルバムや曲、パフォーマンスのまとまりとしてのライヴを対象とするのが一般的。でも、ただ聴き取るだけでなく、カラオケ、演奏コピー、ダンスやふりまね、音楽ゲームなど日常の遊びの一部として音楽に興ずる機会も多く、テレビやラジオあるいは商店街などむこうから勝手に音楽が流れてくる環境だってある。それゆえ、生真面目な「聴取」以外に力点を置き、執筆当時に話題だったボーカロイドなどネットでの「音楽遊び」を大きく扱ったのが『ソーシャル化する音楽』だった。

 

ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ

ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ

 

 

 興味の方向性をそうだったから、「新しい・珍しい・奇妙」な音楽が「笑い」とともに受容されてきたとして日本のポピュラー音楽史をたどり直した矢野利裕『コミック・ソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』は面白く読んだ。同書には、生真面目な「聴取」からは思い浮かばない音楽史が綴られており、私が2003年に発表した『YMOコンプレックス』にも言及してくれていた。YMOとタモリの関連を書いた部分だ。

 で、『コミック・ソングがJ-POPを作った』を読んでいる最中、YMO関連でべつに思い出したことがある。それは、新しい音楽がノヴェルティ(=新奇)ソングとして受け入れられ親しまれていくことを主題とし、なかでもリズム(歌謡)の持つ力に注目した同書だから呼び覚まされた思い出だった。

 矢野は、YMOのテクノ・ポップがディスコの影響下から出発したことに触れた部分でこう記している。

 

 実際、一九七〇年代後半から一九八〇年代は、ディスコやテクノのフォーマットを適用するかたちで、安易な楽曲が次々とリリースされていた。映画『未知との遭遇』が流行すれば「未知との遭遇のテーマ」(一九七七年)、インベーダーゲームが流行すれば「ディスコ・スペース・インベーダー」(一九七九年)といった具合だ。

 

 

 実は、私が自分から好き好んで音楽を聴くようになったのは、ちょうどこの時期だった。当時は、NHK FMでやっていた映画音楽の紹介番組(タイトル忘れた)をよく聴いていた。「ロードショー」や「キネマ旬報」といった雑誌をめくり、テレビで流れる映画予告編にわくわくしていたものの、映画館に何度も行けるほどのこづかいはもらっていない。そんな中学生は、サウンドトラックを聴くことで映画の内容を想像していたのだ。

 当時は、クラシック的なオーケストラ編成やジャズ的なビッグ・バンド編成のサントラが主流で、たまにロックといった印象だった。だが、ディスコ・ブームがやって来たのである。

 ビージーズに関してはまず、『小さな恋のメロディ』の主題歌“メロディ・フェア”で知った。だからフォークの印象だったわけだけれど、『サタデー・ナイト・フィーバー』の諸曲を聴いた時にはチャラチャラしたディスコに変身していたからたまげた。また、上記のFM番組では、あのオーケストラの響きが仰々しい『スター・ウォーズ』のテーマとともに、それをディスコにアレンジしたミーコのヴァージョンも流したのだ。これがヒットしたミーコは、『未知との遭遇』などもネタにしていたっけ。

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 一方、その頃の私は、パーソナリティのおしゃべりを主体にしたラジオの深夜放送も聞くようになっていたから、合間に流れる洋楽にも親しみ始めていた。そこではクイーン、キッス、イーグルスなどのロックと並行してディスコ・ミュージックが耳に入ってきた。なかには後に電気グルーヴがサンプリングする“ハロー・ミスター・モンキー”や、“ソウル・ドラキュラ”などコミカルな印象の曲も少なくなかった。ベートーヴェンの重々しいあのフレーズをディスコのちょこまかしたリズムにのせた“運命’76(

A Fifth of Beethoven)”など、ギャグとか感じられなかったし。

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 自分が踊りに行くなどという発想のなかった中学生は、自分の部屋で、ノベルティソングとしてディスコと出会ったのである。ディスコ・アレンジに興味を抱いた私は、その手のパロディ風な曲を求め、リメイク版『キング・コング』のジョン・バリーの音楽を日本で改変した“ソウル・キングコング”なんてシングルも買った(『犬神家の一族』で好きになった大野雄二がやっていたからだ)。

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 というわけで、ミーコ版“スター・ウォーズのテーマ”もコミカルなものと受けとめつつ愛聴した。この曲はSF映画らしく、ところどころに効果音的に電子音が使われていた。そして、数年後にSF活劇風のイメージが与えられたYMO“ライディーン”を初めて聴いた時、ミーコ版“スター・ウォーズのテーマ”みたいだと思ったうえで好きになったのである。YMOメンバーは『スター・ウォーズ』やミーコに触れた発言を残していたし、影響関係はあっただろう。“ライディーン”も一つのきっかけとなり、私はテクノ・ポップにハマっていった。

 

YMOコンプレックス

YMOコンプレックス

 

 

「新しい・珍しい・奇妙」な、「笑い」を伴う新しい音楽に悦びを見出していく。中学から高校の時期は、本当にそういう聴きかたをしていたなぁと『コミック・ソングがJ-POPを作った』を読んで思い出したのだった。入口に「笑い」がなかったら、ここまで音楽を聴いていなかったかもしれない。

 

 

最近の自分の仕事

・下村敦史著『フェイク・ボーダー 難民調査官』(文庫化で『難民調査官』を改題)の巻末解説

絶対合格!キスエクと学ぶ「夏のプログレッシブロック強化講座」

『意味も知らずにプログレを語るなかれ』刊行記念のイベントをやります。

 

7月31日(水曜日)

夏を制するものはプログレを制する!円堂都司昭『意味も知らずにプログレを語るなかれ』刊行記念~絶対合格!キスエクと学ぶ「夏のプログレッシブロック強化講座」

 

出演は私=円堂都司昭と、

 

【出演】
円堂都司昭(ライター/文芸評論家)

【ゲスト】
楠芽瑠(xoxo(Kiss&Hug) EXTREME)
一色萌(xoxo(Kiss&Hug) EXTREME)
高木大地(金属恵比須)

【進行】
成松哲(フリーライター

 

詳細はこちら。

http://pundit.jp/events/4229/?fbclid=IwAR14rJL3PRfEiZa4PQ6vxDKS5VIizSr_kPfyvk7QyaQ8wDizQym7_BKJvls

 

よろしくお願いします。

 

意味も知らずにプログレを語るなかれ

意味も知らずにプログレを語るなかれ

 

 

 

 

最近の自分の仕事

・今村昌弘『魔眼の匣の殺人』の書評 → 「小説トリッパー」2019年夏号

・「夜明けの紅い音楽箱」(今回とりあげたのは恩田陸『月の裏側』)、第19回本格ミステリ大賞小説部門&評論・研究部門選評 →「ジャーロ」No.68

・ユーディト・W・タシュラー『国語教師』の書評 → 「モノマスター」8月号

・宮内悠介『偶然の聖地』、矢野利裕『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』の紹介 → 「小説宝石」7月号 https://www.bookbang.jp/review/article/571501

近刊予告『意味も知らずにプログレを語るなかれ』

 

 

意味も知らずにプログレを語るなかれ

意味も知らずにプログレを語るなかれ

 

意味も知らずにプログレを語るなかれ|商品一覧|リットーミュージック

 

 有名洋楽曲を歌詞の方面から読み解く『意味も知らずに〜』シリーズの第4弾は、プログレッシブ・ロックがテーマ。

 

収録予定曲(全24曲)

ピンク・フロイド

「Arnold Layne」

Eclipse

「Wish You Were Here」

「Another Brick In The Wall Part II)」

キング・クリムゾン

「21st Century Schizoid Man」

「Epitaph」

「The Letters」

「Starless」

「Elephant Talk

◎イエス

「Roundabout」

「Close To The Edge」

「Soon (from "The Gates of Delirium")」

ジェネシス

「The Musical Box」

「Watchers Of The Skies」

「Cuckoo Cocoon

「Land Of Confusion」

◎エマーソン、レイク&パーマー

「Promenade 2」

Battlefield

「Karn Evil 9-First Impression Part 2」

◎U.K.

「In The Dead Of Night」

 

◎エイジア
「Heat Of The Moment」
◎ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター
「Killer」
ジェスロ・タル
「Thick As A Brick」
◎ザ・ムーディー・ブルース
「The Night-Nights In White Satin」

 

 

『ディストピア・フィクション論』とクイーン

 

 (バンドじゃない方の)クイーン再入門の「ミステリマガジン」7月号。書評欄で松坂健氏がとりあげたなかの1冊に『ディストピア・フィクション論』が。ミステリを話題にした部分があるとはいえ、どちらかといえば「SFマガジン」寄りの内容なのに恐縮です。同書では(バンドの方の)クイーンにも触れています。

 

ディストピア・フィクション論』でなぜクイーン? と思われるかもしれんが、ディストピアSF映画の古典『メトロポリス』の1984年版の主題歌がフレディ・マーキュリーで、その関係からクイーン“RADIO GA GA”MVには同作の映像が使用されていた。

 

 また、それ以上に、映画『ボヘミアン・ラプソディ』でスルーされた南アフリカ公演騒動が「分断」というディストピア的問題と関わる出来事だったから、『ディストピア・フィクション論』でクイーンをとりあげたのだった。

 

ディストピア・フィクション論: 悪夢の現実と対峙する想像力

ディストピア・フィクション論: 悪夢の現実と対峙する想像力

 

 

 

最近の自分の仕事

樹木希林の名言集がベストセラーに 演技と実生活に見る、異質なものを同居させる力量 https://realsound.jp/movie/2019/04/post-354221.html

・葉真中顕『Blue(ブルー)』刊行記念インタビュー https://www.bookbang.jp/review/article/566275

劇団四季ミュージカル『キャッツ』、なぜ愛され続ける? 時代を超えて人々の心を打つ楽曲の魅力 https://realsound.jp/2019/05/post-356781.html

・葉真中顕『Blue(ブルー)』書評 → 「ハヤカワミステリマガジン」7月号

 

さやわか『名探偵コナンと平成』

 この作品を考察することで現在における真実をも論じた本書、面白かった。被害者と加害者の男女比率や動機の時期ごとの変化を語った部分など興味深く読んだ。

 

名探偵コナンと平成 (コア新書)

名探偵コナンと平成 (コア新書)

 

 

 

最近の自分の仕事

  • 葉真中顕インタビュー、芦原すなおハムレット殺人事件』、呉勝浩『バッドビート』の書評 → 「小説宝石」5月号
  • 本城雅人『崩壊の森』書評 → 「モノマスター」6月号

最近の自分の仕事

『ディストピア・フィクション論』 目次

 

ディストピア・フィクション論: 悪夢の現実と対峙する想像力

ディストピア・フィクション論: 悪夢の現実と対峙する想像力

 

 

円堂都司昭著『ディストピア・フィクション論 悪夢の現実と対峙する想像力』(作品社) 目次

序章 みなさまご存じのディストピア
      赤川次郎ディストピア小説
      「ぬり絵」としての『東京零年』

第一章 監視と管理
   一 悪しき統治を想像する
      『「統治」を創造する』の理想像
      『われら』『一九八四年』『すばらしい新世界』の硬い公共
       身体、言葉、人間関係の支配
      科学的管理の洗練
      ディズニー的な『プリズナーNo.6』
      『一九八四年』と一九八四年の落差
      『ドーン』の分人主義
      アメリカという名の一人の友人
      高度化するセキュリティと対抗手段
      『虐殺器官』の管理のフィルター
      健康が強要される『ハーモニー』
      壁からフィルターへ
   二 監視社会の寓話
      ディストピア小説フェアの伊坂幸太郎
      情報のつなぎあわせ
      機械化されたシステム
      国という記号を使ったエンタメ小説
      見通せない個人に訪れる理不尽な運命

第二章 権力の戯画と理想
   一 権力の戯画
      保守からみたディストピア『カエルの楽園』
      『動物農場』との共通項
      プロパガンダか寓話か
      サヨクによる政権風刺『虚人の星』
      自分の思う現実を置き換えたパズル
      安倍でありアドルフである『宰相A』
      日本風刺小説のなかの天皇
      肥大したマッチョの不能
      国民感情の戯画
   二 権力の理想
      角栄を美化した石原慎太郎
      『シン・ゴジラ』の音楽 
      巨大不明生物出現のシミュレーション
      理想の組織的総合力
      「Who Will Know」の美しさ
      日本が超自我であるカヨコ
      ゴジラの異物感

第三章 同調と世代を超えること
   一 記憶と絆
      『シン・ゴジラ』『あまちゃん』への批判
      時間の早送りと巻き戻し
      世代を超越するなにか
      忘却の罪悪感とらえた『君の名は。
      組紐と「ムスビ」
   二 壁による隔離と合唱の連帯感
      怒りとともにふり返ってはいけない
      レディオヘッドとクイーン
      一体感自体がメッセージ 
   三 同調の光と影
      3・11後の音楽
      ヒロシマからフクシマへ
      「上を向いて歩こう」の回帰
      強い「絆」からゆるいつながりへ
      『想像ラジオ』の静かな同調
      木と声
      ヒューマニズムの忌避
      『ボラード病』の同調圧力
      水俣病患者の「君が代
      RADWIMPSHINOMARU」への批判

第四章 分断の寓話、都市の統合
   一 時間の遡行、精神の退行
      『猿の惑星』の国旗
      『キングコング』と9・11
      過去の隠蔽、未来の変更
      『闇の奥』へ遡る
      猿と人のキス
      戦場のディストピア
      『蠅の王』の少年たちと猿
      種族の歴史と個人の記憶
      科学的ディストピア神秘主義
   二 都市の見えない部分
      『ズートピア』の社会構造
      群集の人、見えない人
      『都市と都市』の見えない壁
      分断国家のアレゴリー
      『あらしのよるに』における異種族間の友情
      ライシテが空無化する『服従
      『呪文』における食
      私たちの肖像画としての『東京自叙伝』
      『俺俺』の食いあうものたち
      無数の私の無責任

第五章 身体とジェンダー
   一 身体の支配と逸脱
      『百年法』の独裁
      昭和と平成、天皇二代に象徴された高齢化
      『七十歳死亡法案、可決』の家族事情
      『九十八歳になった私』がぼやく
      ゾンビの多義性
      魂なき体と労働
      ロボットとフランケンシュタインの原則
      『屍者の帝国』のカラマーゾフ
      『ブレードランナー』の模造記憶
      幸福の基盤
   二 生殖と性差
      ロボット/レプリカントの性 
      『鉄腕アトム』のロボット法
      恋愛が無意味な『わたしを離さないで』
      逃亡も抵抗もしないクローン
      『侍女の物語』における生殖
      無自覚、陳腐な悪
      『アカガミ』と『徴産制』の出産推進政策
      ジェンダーをめぐるバックラッシュ
      『リリース』のリベラルな悪夢
      性、家族が解体される『消滅世界』

第六章 環境と戦争
   一 環境への適応と俯瞰、サバイバル
      世界に復讐する『キャリー』
      『地球星人』と科学的管理法・優生学
      映画『美しい星』の気象予報士
      『不都合な真実』が語る大問題と承認欲求
      『サバイバルファミリー』と「見えない都市」
      「見えない世界」からむき出しの欲望へ
      『東京島』と団地
      『バラカ』の棄民
      東京を問題圏に引きずりこむ
      「献灯使」の鎖国と『地球にちりばめられて』
   二 戦争と共生
      地球市民と『美しい国へ』
      『大きな鳥にさらわれないよう』の戦争不在
      『この世界の片隅に』の空
      歴史の再現と『ディレイ・エフェクト』
      『高い城の男』の歴史改変
      日本合衆国の狂信
      『ミライミライ』における世界地図の変容
      ニップノップの多様性

終章 ポスト真実のなかの言葉
   一 データと象徴 27
      左派マンガとしての『R帝国』
      『銃』とAI
      『平成くん、さようなら』と『ニムロッド』の差
 20象徴であり「空」である「箱の中の天皇
   二 子どもの無垢と子どもじみた無軌道
      「アメリカの壁」と『アンダー・ザ・ドーム
      日常の不安と非日常の恐怖の共振
      子どもの悪戯 
   三 一貫性のある過去
      『帰ってきたヒトラー』を笑う/と笑う
      バベルの塔からポスト真実
      『華氏451度』とポピュリズム
      歴史が『愉しみながら死んでいく』
      『図書館戦争』と図書館の現実
      『小説禁止令に賛同する』の読者
      『地下室の手記』の水晶宮
      『君たちはどう生きるか』の過去と未来
      人類の経験

あとがき
参考文献
索引