ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

「不安の受容」

 原発事故後の放射能汚染、地下鉄サリン事件後のテロ、80年代のエイズ、70年代の公害……。実態をよくつかめないまま盛んに報道され不安や恐怖が煽られるけれど、それが続きすぎて日常になってしまうと人々はやがて慣れ、気にしなくなっていく。そんな「不安の受容」は過去に何度もあったというのに、上手な慣れかたを社会として覚えられない。世界的規模の広まりをみせる新型コロナウイルスに対して各国の人々は、相変わらず右往左往している。

 問題に関して「対策を進める」と「日常になって慣れる」をどうすりあわせていくのか。過去の「不安の受容」はどのような過程をたどったのか。あらためてたどり直したい。手頃な資料があれば読んでみたい。

五島勉、小松左京と氷河期

ノストラダムスの大予言』(1973年)の著者、五島勉が90歳で死去していたと伝えられた。

https://bunshun.jp/articles/-/39132?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=socialLink

 私は『ノストラダムスの大予言』を一つの軸にして『戦後サブカル年代記 日本人が愛した「終末」と「再生」』を書いたのだった。お世話になりました。  

 

 今となっては、『ノストラダムスの大予言』は1999年に空から恐怖の大王は降ってこなかったねーって話になる。それ以上にはずれたのは、「大地と大気は冷えていく」という予言詩だろう。同書と同時期に『日本沈没』(1973年)がベストセラーになった小松左京は、最近では『復活の日』(1964年)で現在のパンデミックを予想していたかのように思える。でも、1970年代にはいずれ氷河期がくるのではないかと真面目に議論されていて『ノストラダムスの大予言』はそれに乗っかっていた。そして、小松も地球が冷える可能性を真面目に議論していたのだ。地球温暖化など想定されていなかったし、その意味では五島だけでなく小松も予言者ではなかった。 

 

『人間革命』不在

 市内の図書館に大槻ケンヂ『のほほん人間革命』は単行本と文庫の両方あるのに、あの何巻にもおよぶ池田大作『人間革命』が一冊もないと知った。意外。浦安には創価学会の立派な施設もあるのに。ありがたいから借りずに買って読めということなのかと思ったら、隣の江戸川区の図書館には揃っているようだ。

 最初は丹波哲郎主演の映画『人間革命』を検索したのだけれどこれもないし、DVDは入手難みたい。ただ、橋本忍のシナリオだけはとりよせて読んだ。

 なぜそんなことに関心があるのかというと、最近話題の『日本沈没2020』を見ていて、かつての映画『日本沈没』へさかのぼれば、1973年公開、丹波出演、橋本シナリオという点が映画『人間革命』と共通しているから。前回のブログに書いた通り、古川日出男『おおきな森』を読んで以来、日蓮の系譜への興味が高まっているというのもある。

 というわけで、国柱会の田中智学が作った言葉「八紘一宇」を軸に日蓮傾倒者の流れを追った本に目を通した後、『人間革命』早わかり的な本をめくり中。

 

 

 

『人間革命』の読み方 (ベスト新書)

『人間革命』の読み方 (ベスト新書)

 

 

 

最近の自分の仕事

-「夜明けの紅い音楽箱」(とりあげたのは浦賀和宏『時の鳥籠』 → 「ジャーロ」No.72

 

ジャーロ No. 72

ジャーロ No. 72

  • 発売日: 2020/06/26
  • メディア: Kindle
 

 

宮下隆二『イーハトーブと満州国 宮沢賢治と石原莞爾が描いた理想郷』

 

   法華経を絶対視して『立正安国論』で仏教的ユートピアを唱えた日蓮を信奉する宗教団体・国柱会にそれぞれ入信していた宮沢賢治石原莞爾。詩人・作家・教員の宮沢と軍人の石原で立場は異なるが、いずれも東北出身であり国柱会の影響下でイーハトーブ満州国という理想郷を思い描いた共通性を古川日出男おおきな森』は、モチーフとしてとりこんでいた。同作で2人の対比に興味を持ち、そのことをテーマにすえた宮下隆二『イーハトーブ満州国』に手を伸ばした。 

 著者は、宮沢賢治石原莞爾だけでなく北一輝井上日召という日蓮主義に連なるものが活動し、創価学会霊友会立正佼成会という法華経系教団が相次いで立ち上がった昭和初期を「法華経の時代」と呼ぶ。この本を読むと、この国における日蓮および『立正安国論』の影響の根深さを感じる。

 そういえば映画『人間革命』で創価学会第二代会長の戸田城聖を演じた丹波哲郎は、映画『日本沈没』(音楽は『ゴジラ』で有名な伊福部昭)では消滅する列島から国民を避難させようと奮闘する首相役を、映画『ノストラダムスの大予言』では予言詩を参照して人類滅亡の危機を警告し国会で演説する環境学者役を務めたのだった。そのように一人の同じ俳優が宗教と政治の両面で憂国の情を説いたこと、また3つの映画の政策がいずれも田中友幸であり、『人間革命』と『日本沈没』のシナリオがどちらも橋本忍であったこと、『人間革命』と『ノストラダムスの大予言』の監督が舛田利雄だったことは、宮沢賢治石原莞爾の意外な共通性にも通じているようで興味深い。  

 

最近の自分の仕事

-阿津川辰海『透明人間は密室に潜む』のレビュー → 「ハヤカワミステリマガジン」7月号 

ミステリマガジン 2020年 07 月号 [雑誌]

ミステリマガジン 2020年 07 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: 雑誌
 

 -矢野利裕『コミックソングがJ-POPを作った』評 → 共同通信が地方紙に配信した書評コラムシリーズ「積ん読崩し」の1つ https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1103264

大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研! TWENTY TWENTY』

 

ジャニ研! Twenty Twenty ジャニーズ研究部

ジャニ研! Twenty Twenty ジャニーズ研究部

 

 

 本日発売のジャニーズ研究部『ジャニ研! TWENTY TWENTY』。大谷能生速水健朗・矢野利裕の鼎談は、ネット解禁したジャニーズのコロナ禍での活動に触れて終る。巻末年表は5/13期間限定ユニットによるコロナ拡大防止チャリティソング制作発表、5/15嵐の新曲デジタルリリースまでだ。その後、手越祐也があんなことになり今夜のように退所会見をYouTube生配信するとは予想できなかっただろうな。

 

最近の自分の仕事

-「プログレッシブ・ロック前夜の鼓動」 → 「METAL HAMMER JAPAN」Vol.2 

 

 

「文蔵」7・8、「小説現代」6&7の合併号

 

文蔵 2020.7・8

文蔵 2020.7・8

  • 発売日: 2020/06/23
  • メディア: Kindle
 

 「文蔵」最新号の特集「「医療小説」の進化を追え!」。「危機の現代こそ読むべき名作15選」(末國善己)が、新型コロナの話題から始めて奈良時代天然痘流行を描いた澤田瞳子『火定』へと一気に昔へ遡るあたり、人類と感染症のつきあいの長さを思い知らされてめまいがする。

 

 

小説現代 2020年 06・07月 合併号 [雑誌]

小説現代 2020年 06・07月 合併号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/06/22
  • メディア: 雑誌
 

 コロナの影響で今月刊の小説誌は合併号が多い。「小説現代」最新号もそう。「緊急特集 この災厄に思うこと」で11人がコロナ禍についてエッセイを書いている(作家ばかりでなく、四千頭身後藤拓実も。彼は同誌に連載を持っている)

 同号のコロナ禍をめぐるエッセイとしては、特集以上に印象的なのが新井見枝香の連載「きれいな言葉より素直な叫び」第十二回。9年前の3月11日を回想しつつ緊急事態宣言前の同日のストリップ劇場への出演をふり返っている。

 そこで語られる人との距離感。コロナのせいで、人々はこうしたライヴ体験の機会を奪われたのだなとあらためて思う。

 少し前、アイドルや元アイドルによる小説やエッセイについて書く機会があった。それらの多くで「見る-見られる」や自意識がテーマになっていたことから、新井の近況を綴った連載エッセイにも興味を持ち、遅ればせながら読み始めたのである。書店員として有名なこの人が、ストリップ・デビューしたことには驚いたのだった。

 

 

最近の自分の仕事

-古川日出男『おおきな森』、麻生享志『『ミス・サイゴン』の世界 戦禍のベトナムをくぐり抜けて』の紹介 → 「小説宝石」7月号 https://www.bookbang.jp/review/article/628794

 

小説宝石 2020年 07 月号 [雑誌]

小説宝石 2020年 07 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/06/22
  • メディア: 雑誌
 

 

 

おおきな森

おおきな森

 

 

 

 

「小説トリッパー」25周年

 

 創刊25周年なのね。先日、リアルサウンドに寄せたJ文学回顧(下記↓)は、同誌2000夏季号に書いた清涼院流水論「POSシステム上に出現した「J」」で“J”に注目したことの延長線上にある内容だった。20年前か……。

小説トリッパー」2001秋季号に中島梓/栗本薫論を執筆時には、阿部和重シンセミア』が連載中だった(同作中の「池谷真吾」は当時の担当編集/現・編集長の名)。そして、時間は流れ、同作から始まる三部作の完結編『オーガ(ニ)ズム』について昨年、阿部氏にインタビューできたのは、感慨深かった。

 

  京極夏彦姑獲鳥の夏』も25周年だそうな。二十ヵ月身ごもったままの妊婦を中心に、出産をめぐるあれこれが語られるこの小説。発表当時、反出生主義って言葉はまだ流通してなかったよな、と思ってみたり。

https://mitsui-shopping-park.com/ec/special_book_190418 

 

 

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 いつもはこんなことしないけど、↑これら4冊を並行して読みつつ、某賞下読みを進めている。外出回数を減らした反動で、とにかく目先を変えたくなってるのかも。かといって、この4冊に関連性がないわけではない。

 

 

最近の自分の仕事

-阿部和重町田康赤坂真理……“J文学”とは何だったのか? 90年代後半「Jの字」に託された期待 https://realsound.jp/book/2020/06/post-567815.html