長澤唯史『70年代ロックとアメリカの風景 音楽で闘うということ』読了。第I部では、キング・クリムゾン、イエス、ジェネシス、エマーソン、レイク&パーマーとプログレからはじめ、ジェフ・ベック、マーク・ボラン、ザ・フーというブリティッシュ・ロックをとりあげる。ボブ・ディラン、イーグルスなどアメリカ勢を扱う第II部では、カルロス・サンタナ、ジミ・ヘンドリクスのアイデンティティを論じ、ソウルのマーヴィン・ゲイ、ヒップホップのケンドリック・ラマ―の考察を経由してウッドストック再検討の終章に至る。
英米文学の研究者である著者は、文学、思想と対照しつつ音楽について語っていく。本のテーマは書名通りだが、“70年代”、“ロック”、“アメリカ”以外のアーティストも俎上にのせ、書名からは意外な構成をとってカウンターカルチャーを再評価しているのが興味深い。あとがきで記されている通り、とりあげるアーティストは著者が選択したのではない。だが、依頼されて書いた原稿を集めた本ではあっても、発表順とは順番を入れかえ、1つの流れを作っている。アイデンティティ・ポリティクスのテーマなど、各原稿の議論をこう並べ直したからこそ、より浮かび上がるようになっている。問題意識を持続していたから可能になった構成だと思う。
本文の締めくくりでは、「生きつづけるカウンターカルチャーの精神」としてブルース・スプリングスティーンに言及している。彼を象徴的な存在としてとらえる点について、平野啓一郎の未来を舞台にしたSF的な小説『ドーン』(2009年)を思い出した。同作では、「ウィ・アー・ザ・ワールド」の50周年記念コンサートが催され、かつてのチャリティ・シングルで熱唱したブルース・スプリングスティーンが、87歳で闘病中ながら車椅子で登場する場面があったのだった。2035年のことである。
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