ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)
昨日春一番が吹いたので、部屋に積んだ本の塔からこの『春期限定』作品を抜き出し、読んでみた。
ライトノベル出身作家によるミステリ。恋愛しているわけでなく、友人とも微妙に違う若い男女二人が、次々に謎に出会う。そして、短編連作を通して説き明かされることもある。――以上の大枠だけ取り出せば、乙一『GOTH』と共通している。けれど、『GOTH』が暗黒系の“選民”的存在である少年少女を主役とし、鬼畜な事件を取り上げていたのに対し、『春期限定いちごタルト事件』は「小市民」を目指す2人が“日常の謎”にかかわる内容で、基本的には“ほのぼのイメージ”が漂う。
こうして『GOTH』と『春期限定』は、正反対に近い第一印象を与える。なのに、後者の登場人物が抱えている一種の暗黒は、ところどころで前者に近い冷ややかさを覗かせもするのだ。
一方、米澤穂信の前作『さよなら妖精ISBN:4488017037、東欧から来た少女との出会いをきっかけに、普通の男子高校生が自分のこれまで生きてきた「円」の外へ出たいと願い始める内容だった。この作品は「ライトノベル+ミステリ」であるうえ、「+社会派」でもあって、自分と世界の関係を素直に問うた優れた青春小説でもあった。
考えてみれば『春期限定いちごタルト事件』は、その『さよなら妖精』の逆をやっている。名探偵みたいな目立つことはせず、普通の「小市民」を目指そうとする主役2人の目標は、いわば「円」の内に戻ろうとしているのだから。
まぁ、「円」の外に出ようとした作品の後の、内に戻ろうとする作品だから、前作よりこじんまりしている。けれど、前作でもそうだった通り、謎解きと同等(かそれ以上)に、謎が解かれた場合に周囲の人間がどう反応するかということに、緊張感を見出せる書き方がされている。それが殺人事件なしのミステリを読ませるために、米澤が開発した術でもある。
タイトル通り、デザートとしては気の利いた小品。

  • 今夜の献立
    • 豚じゃが(豚こま、じゃがいも、たまねぎを、しょうが、きび砂糖を加えためんつゆで煮る)
    • 肉団子炒め(豚ひき肉に干しエビ、片栗粉、塩、こしょうを加え、レンジでラップして蒸す。それをニンニク、しょうが、青ネギ、もやし、ニラと炒め、オイスターソース&ケチャップ)
    • とろろこぶの吸い物
    • 水菜とミニトマト(マヨ+りんご酢+オリーブオイル+しょう油
    • 玄米
    • はっさく