ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
本自体は、発売された春に読んでいた。でも近頃、どんどん夏らしくなってきたことだし、書きとめておくにはいいタイミングかな、と。
シリーズ前作は『春期限定いちごタルト事件』だったし、今後、『秋期限定モンブラン事件(仮)』も予定されている(http://www.pandreamium.net/)。ということは当然、『冬期限定〜事件』も予想される。
「春期」、「夏期」、「秋期」と、1年のうちの限定された季節を指す言葉を最初に掲げたうえ、さらに「限定」の言葉を付け加え、その『○期限定〜』というタイトルのパターンを繰り返す。こうした「限定」することへの過剰なこだわりが、小鳩君と小佐内さんを主人公とする〈小市民シリーズ〉特有の感触を形作っている。
で、シリーズの「限定」する感覚の中心は、どこにあるのか? それは、自分たちの困った性格をコントロールするために小鳩君と小佐内さんが「小市民」を演じる、つまり自らのキャラクターの範囲を「限定」するところにあると思うわけだ。そして二人は、〔恋愛関係にも依存関係にもない互恵関係〕を結ぶ。
とはいえ、二人の互恵関係はある種の不安定さを含んだものであるしかない(青春ドラマにおける昔ながらのベタなテーマ設定でいえば、男女間で友情は成り立つのか? ――みたいな。〈小市民シリーズ〉は、そうしたテーマ設定のグレードアップのような面がある)。
したがって、いちごタルト、トロピカルパフェ、(そして予定されるモンブラン)など、不定形で崩れやすいスイーツが、彼らのキャラクターや関係性の不安定さを象徴するものとして、作中へ招かれることになる。
それにしても、パフェを食しながら、甘ったるい、甘すぎる、と表明する時の小鳩君のあまりにも苦い気分は印象的だったな。
(関連雑記http://d.hatena.ne.jp/ending/20050224#p1


さて、『夏期限定』中の一編「シャルロットだけはぼくのもの」も収録されたアンソロジー推理小説年鑑 ザ・ベストミステリーズ2006』が発売された。この本の作品選考には僕もかかわり、著者紹介の一部を担当しております。