(文学フリマで買った同人誌)
ライター、近藤正高の個人誌で、東京オリンピックの特集。
http://d.hatena.ne.jp/d-sakamata/20061112/p1
これまでにも近藤は、成田空港、新幹線などをモチーフに都市論、昭和論を書いていて、僕はこの路線のファンなのだ。
今回の特集は、シドニー・オリンピックのマラソンの時間にあわせ、東京オリンピックのマラソンコースを走ったことを綴った文章の再録を中心とし、書き下ろしも収録。筆者が、ランニングに日の丸をつけて走った時の写真が表紙になっている。こんなアホなこと、よーやったな。マラソン・レポートについては、新たな文章でないのが残念だが、面白い。いろいろ文献にあたった「論」の要素と、体当たりエッセイが渾然一体となった文章には、スポーツのような臨場感がある。
そもそも、マラソンという競技は、他のスポーツと比べて、その全体像を多くの人々がつかめるようになるまで、かなりの時間を必要とした競技だとはいえないだろうか?
という指摘には、なるほどと思った。確かに、テレビの中継技術が発達するまで、マラソンという競技の全体像はつかみにくかったはずである。
一方、近藤はレポートのなかで、
オリンピック開催の名誉と栄光は、開催する都市にある
というオリンピック憲章に触れた虫明亜路無の文章を引用している。
そこで、ちょっと思ったのは――。
マラソンは町中を駆け回る行為であり、この競技の全体像がつかみやすくなり、人々に映像を届けやすくなったということは、都市の全体像をプレゼンしやすくなったことと等しい。自らの地域の商品価値を高めようと、各都市がオリンピック招致に血眼になる。そうした際に、実況中継がそのまま観光案内とイコールであるマラソンは、都市にとってのオリンピックの“おいしさ”を象徴する競技になっている。
近藤が今回、東京オリンピック特集を組んだのは、2016年のオリンピックの国内候補地に、福岡を破り東京が決まったことがきっかけだったらしい。そういう意味では、都市のオリンピック招致に関する問題意識から始まっているんだから、誌面の柱に他の競技でなくマラソンを持ってきたのは当然だった。
近藤には、現代史のダイナミズムをつかみとろうとするこの種の原稿を、今後も期待したい。
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